君と綴る未来 一余命僅かな彼女と一

 十二月、中旬。
 期末テストが終わったクラス内は解放感に包まれて、昼からどこに行くだの、冬休みの予定だの、クリスマスだの、話が飛び交っていて、うるせぇのなんのって。
 そう思いホームルームをブッチした俺は、ざわついた教室を後にし、行き着いたのはあの桜の並木道。
 まあ、そうは言っても木の葉は全て落ち散り、何も残ってねぇんだけどな。
 俺みたいに。
 寒ぃ家に帰りたくないからって海辺にあるベンチに座る俺は、相当ヤバく仕上がってるだろうから。

 寒ぃなぁ。
 冬の潮風を真正面から浴びた俺は、情けねぇぐらいにブルブルと震えあがる。
 ペラッペラのジャンパーで防寒なんか出来るはずもなく、手なんか悴んで痛いのなんのって。

『ごめん、寒いよね? これ、良かったら』
 去年の冬、あいつの小説の構想に突き合わせられた俺は、バカ寒ぃ海辺のこのベンチに座らせられ、水筒に入った茶を渡された。
 温かったなぁ。
 女子はジャスミン茶みたいな洒落たもん持ってきてんのかと思えば、あいつは熱い麦茶で、やっぱ主婦じみてんだよなぁ。
 
 ふぅと溜息を吐くと白い息がふわふわと浮かんでゆき、それを追いかけるように空を見上げると、淡い空に薄い雲が視界に入ってくる。
 それはあいつと一緒に眺めた、青く澄み切った空、もくもくの入道雲、眩しく照りつける太陽とは違い、共に聞いたサワサワと葉が揺れる音は存在しない。
 もう二度と、空を綺麗だと思うこともねぇだろうな。
 俺が、全てぶっ壊したんだからよ。

「ホント、大バカヤロウだ……」
 脳内に過った幻影を払い、薄いジャンパーのポケットからスマホ取り出す。
 違ぇだろ? 今、俺が望んでいいことは。
 検索アプリのお気に入り欄を開けば、懐かしい小説投稿サイトがズラッと並んでいて一瞬息が苦しくなるが構わねぇ。
 俺は慣れた手付きで文芸に特化した投稿サイトに飛び、検索欄で「青春」、「文学」など候補を絞り込み、作品を片っ端から読んでいく。
 あいつを探すためだ。

 なんでこんな回りくどいやり方してんのかっていうと、俺はあいつのペンネームは知らねーし、公募の添削をした時も題名すら聞かなかったからだ。
 それなら内容から予測されるタグを打ち込みあらすじを読めば、添削した内容にぶつかるだろうと探したが、そんな甘くはねぇか。
 ……以前、盗作被害に遭ったと溢していたことがあった。
 もしかしてその影響で、公募作品は非公開にした可能性があるな。
 俺もやられたことがあるが、あれは害悪でしかねぇ。
 執筆に掛けてきた時間、技能を磨いた努力、作家の尊厳。それらを踏み躙る最低な行為だ。

 思い浮かぶのはあいつの遠い目で、当時中学生だったから文句も言えず泣き寝入りしてしまったと話す横顔は、悲しさと悔しさに満ちていた。
 ギリッと奥歯を噛み締めつつ、俺もあいつを曇らせてしまった一人だと自覚すると、より心は落ちていく。
 だからこそ。

 ……謝りてぇ。
 その一心で俺は、今日もスマホに向き合っている。

 あの美しく、読み手を惹きつけてくる文章。リアルな人間関係。繊細な心情描写。読後感のある終わり方。
 それを読めば、俺はあいつの作品を見つけることが出来る。
 だってあいつの話は、他の作家には書けない唯一無二の物語なんだから。
 だから俺は、全ての作品に目を通すことにした。
 あいつが居るような気がして、あいつの書いた小説を読めば分かると確信して。

 こうして気付けば三か月の月日が過ぎており、季節が秋から冬に変わっていてもそれらしい投稿は見当たらなかった。
 フツウに考えたらそりゃ当然で、小説投稿している作家なんて一体どんだけいると思ってんだって話だ。
 こんな甘いタグ付けだからか、出てくる作品は無数にあり、昨日の続きから読んでいく。
 あいつではないかと、考えないながら。

「ま、ねーよな」
 また情けねぇ声を漏らした俺は、次は他の投稿サイトを開いては検索候補を打ち込み、出てきた小説を順番に読んでいく。
 ファンタジーや恋愛重視のサイトだと分かってても、僅かな可能性にかけて。

 どこまでも諦めの悪りぃ俺は、もう二度と開かねぇと決めていた青春文学賞の選考ページまで開き、題名と名前まで確認していた。
 しかし作品の題名と作家名だけで特定出来るはずもなく、完全に行き詰まり状態だった。

 ……本当に筆を折ってしまったのか?
 そう思う度に検索する指を何度となく止めてしまうが、目を閉じれば浮かぶのは小説について話す時に輝かせるあの目の輝き。
 寒さで悴んできた指に力を入れて次のページに進みスライドしていくと、そのあらすじが目に入った瞬間、目を奪われた。