「本当は食べたかったんだって。クレープ」
「……は?」
的外れ過ぎる発言に、俺は思わずこいつに体を向けていた。
「甘い物嫌いだって言っていたからやめておいたんだけど、本当は食べたかったんだよね? だから持ってきたの」
そう言い、生クリームが溶け始めているクレープを差し出してくる。
……こいつ、マジで言ってるのか?
顔を見れば一目瞭然。大マジだ。
なんだ、なんなんだよ。この天然小悪魔は!
「いらねーよ、甘いの嫌いだって言ってるだろが!」
「え、本当に?」
「ああ」
「じゃあどうしてあんな目で、クレープを見ていたの?」
「あっ?」
「淋しそうだった……からさ」
眉を下げた表情を見せたこいつに、尖らせていた目の力が緩んでくる。
「別にそんなんじゃねーし!」
俺はこいつが持っていたクレープを奪い取り、頭からかぶり付く。
すると口に広がる生クリームの甘さと、果物の水々しい食感。それは、俺が封じていた一つの記憶を蘇らせる。
『直樹、美味しい?』
『本当に、母さんのケーキが好きだな』
柔らかな声、口に付いた生クリームをティッシュで拭いてくれる優しい手。
あれはクレープじゃなかった。誕生日に作ってくれたスポンジケーキ。
それに生クリームや果物をのせてくれ、蝋燭を刺して祝ってくれた。
いくつの誕生日のことだったか。
思い出すことも思い返すこともなかった、母さんと優しきあの人の記憶。
「藤城くん?」
「……あ。いや、これお前が作ったのか?」
「生地は内藤くんが焼いてくれて、私が果物や生クリームを入れたの」
「そうか……」
「もっと生クリーム入れた方が良かった?」
「ちげーよ」
こいつの抜け具合に、心に刺さった棘が緩和されていくような気がする。
「……まあ、甘いのも悪くねーな」
「でしょう? じゃあ次は、お弁当にデザート入れちゃう!」
「それはやめろ!」
「遠慮しなくていいのにぃ」
「俺がするわけねーだろ! ……それよりお前も食えよ。生クリーム、溶けてんぞ!」
「わっ、本当だ!」
慌ててパクパク食べる姿を見入っていると、こっちを見て華を舞わせるこいつ。
プイッ顔を背け俺も頬張ると、甘い口溶けに心が満たされていく。
「美味しいねぇ」
「まあな」
淡い空、暖かな日差し。
小春日和の今日、俺は甘い食い物を好きになった。



