ピロロロロ、ピロロロロ。
こいつが肩にかけていた学生鞄より、スマホの着信音が響く。
俺にチラチラと視線を送る姿に、俺は黙ってこいつに背を向けて歩き出す。
この後、女子共と合流するとか、男子の中に内藤が居るとか。
んなこと、知らねーからよ。
「待って!」
制服の袖が引っかかる感覚に振り返ると、上目遣いで俺を見つめてくる美しすぎる瞳。
「分かったよぉ」と手を抜くと、こいつもハッとした表情を浮かべて、「あれ? スマホどこかなぁ?」と声に出し始める。
「もしもし。ごめん、大丈夫だよぉ。もう、帰るから」
内容的に相手は家族だと分かり、夜空に散りばめられた星がより綺麗に見えちまったなんて。
こんな想い絶対こいつに知られたくねぇと、ニヤける唇をグッと噛み締める。
「ごめんねー、お母さんだった。文化祭の買い出しに行くって言ってたんだけど、寄り道しちゃったからぁ」
へへっと笑う姿は悪いことをしてしまった子どものようで、家でも良い娘をやってるんだと見て取れる。
こいつの言葉にスマホの時刻に目をやると、七時を過ぎていた。
街灯で照らされているとは周囲は薄暗く、肌寒い海辺を歩き回る物好きは俺たち以外にいなかった。
「帰るぞ」
こいつの顔を合わせず、クルリと方向転換をする。
「えっ、ちょっと、どこ行くのー? 藤城くんの家、反対だけど!」
背後より、パタパタと駆け寄る音がする。
「……もしかして、送ってくれる……とか?」
「んな訳ねーだろ! お前の家、知らねーんだからよ!」
「でも、方角合ってるよ?」
「だから知らねーつってんだろ! 学校に戻るだけだしよぉ!」
「ああ、そっか! 前に中学校は南中だったと話したよね? だから方角はこっちだって分かって……!」
「うるせーな! 後で、お前が変な奴に絡まれたとか聞かされたら、胸クソ悪りぃだからだよ!」
こいつはエスパーか? 人の考え、全てを読んでくんなよ!
「やっぱり優しいよ、藤城くん」
「知らねぇ!」
こいつの言葉を無視してズンズンと前方を陣取り歩いていくが、俺はその足をとうとう止める時がきた。
……この先、どこ行くんだ?
仕方なしで振り向くと、そこには口元を抑えるこいつ。面白がってやがったなぁー。
いつもなら知らねっと置いて帰るが、自分でも分かんねーけど、俺はこいつの後ろをノソノソと付いていく。
女子高生の後ろを一定の距離で歩く、男子高生。……側から見たら、ヤベー奴だな。
「ありがとう。遠いのにごめんね」
結局俺は学校を抜け、住宅街に入っていき、こいつの自宅まで付いて来ていた。
「別に、お前の為とかじゃねーし」
かなり無茶苦茶な言い分だが、こいつの為なんて、口が裂けても言いたくなかった。
「明日……、なんだけどさ……」
こいつの言いたいことは分かっている。だから。
「気ぃ向いたらな!」
「うん!」
「まあ、明日ねぇー!」と声に出すこいつを完全スルーして、プイッと顔を背けてスタスタと去って行く。
俺と一緒の場面を同級生や近所、それこそ親が見たら、どーすんだ!
あいつの横を歩くのに相応しくない。
それぐらい俺だって、弁えているつもりだってのによ。
帰路に着く中、思考を巡らせる。
もし流れ星に、一つだけ願いを叶えてもらえたら?
俺は、一体何を願うのだろうか?



