君と綴る未来 一余命僅かな彼女と一

 照りつける太陽はギラギラと光り、あまりの暑さに茹だる七月上旬。
 期末テスト前に出した三万文字の短編を二週間で出してきたこいつは、「なんかコツを掴んだかも」とバカみてぇに感謝してきやがる。
 それからこいつは何を血迷ったのか、大切な公募に出す作品の添削まで頼んできやがった。
 以前俺がダメ出ししまくった、最初に読んだ作品を修正したからってことらしい。

 そして、俺もどっかバグってるのが、修正の文章を読んで訂正案を出し、こいつは書き直した文章をまた俺に見せてきて、結果……。

「ありがとう。これで応募してみるね」
 俺のノートパソコンを静かに閉じたこいつは、次は慣れないであろう台所に行って冷蔵庫を開けて戻ってくる。
 俺に差し出してきたのは、うさぎの小さな二段式弁当箱で、その他にもアルミホイルで包まれたデカいおにぎり二つ、スープジャーと呼ばれる水筒だった。
 キュッキュッと音を鳴らして開けると、中にはじゃがいもとにんじんが入っていて、俺の好きな根菜の味噌汁に食欲を誘われる。
 こいつの前で遠慮もなく口に運ぶとフワッと出汁の香りがして、一瞬遠い記憶を呼び戻されるが、それを振り払おうと、よりガツガツと食い進めていく。

 まあ、なんていうか。なんでこいつの弁当を当たり前の顔して食っているのかと言うと、どこまでもバカ真面目なこいつの考えからだった。
 こいつは指導の礼にと菓子折りとかを持ってきたが、俺は甘いのが嫌いだ。
 いらねえと突き返したが、何か礼をしないと気が済まないと、うるせー。
 じゃあ弁当でも作ってこい、と面倒なこいつを払い除けたつもりだったが、こいつのバカ真面目は筋金入りのようで、本当に作ってきやがった。しかも学校によぉ!
 トートバックも弁当箱もピンクのうさぎ模様で、こいつじゃなければ嫌がらせかと疑ってしまう代物をロッカーの片隅に置かれていたのは肝が冷えた。
 まさか入学して二ヶ月で、便所メシの刑にあたるとは思わなかった。

 もう二度と学校に持ってくんな!
 しっかり釘を刺したつもりだったが何の言葉遊びなのか、「家ならいいよね?」とトートバック持参で上がり込みやがった。

 言っとくがこれはあくまで執筆の為であり、電話やメッセージアプリだと細かいやり取りが上手く出来ないとかで、それ以上のこととかねーし!
 こいつの弁当食ってるのだって、ただの食費の節約で家を出る時の資金に回したいだけだし、意味とかねーから!

「藤城くんは、どうして小説を書くようになったの?」
 脳内に湧き立つ変な考えを振り払おうとガツガツ食っているのに、こいつは嫌な顔一つせず笑顔を振り撒いてくる。
 こりゃ、勘違いする男も出てくるよな。
 ま、俺にはカンケーねー話だけどよ。

「別に。ただの暇つぶし」
 そう言い放ち、筑前煮の蓮根を噛み締める。うん、出汁と醤油のバランスが絶妙なんだよなぁ。

「もう書かないの?」
「飽きた」
 俺は気怠く口ずさみ、味噌汁の風味とそれに合う具を堪能する。

「そっか。……あ、ねえ、明日は何が良い? 明日は鯖なんだけど、その他には自由が効いて。野菜とかは加熱出来るものなら、ある程度聞けると思うし」
 無理に口角を上げ早口で話してくるこいつは一瞬見せた表情を誤魔化すかのように、ペラペラとよく喋る。
 こいつの言いたいことはなんとなく察しており、力無く返答したつもりだったが、気付けば語気が強くなっている自分が居た。
 空になった弁当箱を片付けるこいつに、俺は思わず。

「サツマイモの味噌汁」
 そう呟いていた。

「え? サツマイモは甘い……。うん。他には?」
「余りもんでいいし」
「うん、分かった。作ってくるね」

 ふふっと笑うこいつは口角に相反して目尻を下げ、心なしか声も高い。その姿に気をよくした俺は、つい口走ってしまう。

「次は何書くんだ?」と。
「……え?」

 俺の言葉に手を止め、こちらをまじまじと見つめてきた。その反応に瞬時に反応した俺は、気付けば立ち上がっていた。
 ……やらかした。明日も弁当作ると言っていたから、また見て欲しいのだと思いこんで。
 バカな勘違いと自惚れに、胃の中が反り上がるように気分が悪く、俺はこいつに背を向ける。

「ううん、違うの。また、見てくれるのかなって」
 こいつは、こんなめんどくさい俺にそう笑いかけてきた。それなのに。

「ああ。公募の世界なんて、そんな甘いもんじゃねーからな!」
 また、このような言い方をしてしまう。
 事実だが、それは落選を繰り返している者に告げるのはあんまりで、時に抉られほどの言葉だと知っている。そう気付いた俺は背向けていた体をゆっくり動かしてこいつを見るが、変わらず微笑んでいた。

「本当にそうなんだよねー? 次考えている物語なんだけど」
 目を輝かせたこいつは、次のアイデアを口早に語り始める。面白そうな内容に思わず口を挟むとこいつはメモを取り始め、まだ存在しない物語について俺達は協議していた。

「さあ、次書かないと! テーマは決まってるから、早速プロットを練って……」
 しかし、こいつは ふっと真顔になり、俺をただ見つめてきた。

「藤城くん」
「あ?」
「あのね……」

 カチカチカチカチ。
 時計の音だけが部屋中に響き渡り俺の心臓の鼓動まで、一体化したような錯覚に陥らせてくる。