君と綴る未来 一余命僅かな彼女と一


「次は十日以内な?」
『え?』
「期間は五月三十日から六月八日まで。テーマは俺が決めるから、事前に書くのは禁止だからな」

 中間テストが終わってからの十日間。だったらバカ真面目なお前でも、問題ねーだろ?
 だがこいつは、電話口でも動揺が伝わってくるぐらいに分かりやすいうろたえていて、「あのね……」と続いていく。

「別に完璧なんか求めてねーから、完成させて送ってこい。一秒でも遅れたら読まねーからな」
『あ……、はい!』

 一方的に話して電話を切り、スマホを机にボンっと置く。
 大丈夫、あいつなら出来る。
 送られてきた文章を何度も何度も繰り返し読みながら、俺はいつの間にか心地よく寝落ちしちまっていた。

 真っ暗な空から細い雨の線が見える、梅雨の季節。
 中途半端な暑さとまとう湿気に苛々としていると、約束の六月八日になっていた。
 ……無理だったか。
 スマホに映し出されている時刻は二十三時五十二分となっており、俺の体内より放出される汗により部屋の湿度がより上がっているような気分だった。

「きたっ!」
 パソコンの前に釘付けだった俺は、新着メールに思わず声を上げてしまう。
 って、今日はあの人が出張で良かった。
 こんな間抜けな姿見せるなんて、マジねーから。
 何で家の中で気が抜けないのか意味分かんねぇけど、イラついたところで状況なんて変わらねー。
 くだらない考えはゴミ箱に押し込んで、今はただ別の世界に浸っていたい。

 あいつの筆力は本当にすげぇものだったんだな。
 そう思うのは、今読んでいる文章があまりにもお粗末なものだったからだ。
 風景描写、人物像、どこで、誰と、何をしたなんて書けていない。
 だがその分、軸やテーマがハッキリしていて、心に刺さるものがある。勢いに押されるぐらいこいつの「伝えたいこと」が全面に溢れている。
 これが、こいつに足りないものだったんだな。

『もしもし、全然ダメだよね! 本当に変なの読ませてごめん! 時間なくて!』
 想定していた通りにかかってきた、詫び電話。
 まあ、こいつからしたら締切に間に合わせるのに必死で、下書き以下のできで出しているようなものだろう。
 だがな、それで良いんだよ。

「次は三万文字。早く書かねーと、期末テスト響くぞ」
『えっ! ま、待って! 今月中に! あと三週間しかないけど!』
「バカか? テスト勉強あんだから、まあ、あと二週間ぐらいだな」
『ごめん、無理だよぉ……。私すごく遅筆なの。一時間三百文字書けたら良い方で……』
「そんなん、バカ丁寧に下書きしてるからだよ。締め切りが迫る中で乱雑な文章を書き込む中、思わなかったか? 序盤から大体で書けば、後で文章直せたのによぉって」
「……あ」

 息を呑むような声を漏らしたこいつは、重い溜息を吐き小さく返事した。

 強引な命令は今回で終わりだ。
 あとはこいつが、どう感じてやっていくかだ。