駄菓子より甘い瀬野くん

 ジリリリリ――とスマホのアラームがけたたましく部屋に鳴り響く。毎朝鳴る煩わしいそれに、でも遅刻はしたくないから寝ぼけながらもスマホを探してアラームを止める。
「うわっ!」
 瞼を開けると目の前にとても綺麗な青年が寝ている。驚いて一気に目が覚めてしまった。
――そうだ、瀬野くんがうちに泊まったんだった……。
 昨日終電を逃した彼を自宅に呼び、そのまま一緒にご飯を食べ、布団がないからと俺のベッドで一緒に寝た。
 一人で使うことを想定しているシングルベッドで男子高校生二人が寝るのはなかなか大変だった。かなり引っ付かないとベッドから落ちてしまうのだ。
 俺はソファで寝ると言ったのだが、「泊めてもらってるのに家主をソファで寝かせることなんて出来ない」と瀬野くんが譲らなかった。俺だって、お客さんをソファで寝かせることは出来ない。
 お互い全く譲らず、結局ベッドで一緒に寝ることになった。
 瀬野くんの心音が聞こえそうなほどぎゅっとくっつく。恥ずかしくて堪らなかったが、二人で快適な安眠を取るためにはこれしか方法がなかったのだから仕方がない。
 今も、俺の目と鼻の先で瀬野くんが穏やかな顔で眠っている。
 「天使みたい……」
 入学式の時も思ったが、瀬野くんの金髪は陽の光を浴びると反射で更にキラキラと輝いてとても綺麗なのだ。思わず金髪に手が伸びるが、そっと引っ込めた。
 とりあえず起こさないと……。
「せ、瀬野くん……起きて」
 軽く揺すってみるが、起きる気配全く無し。
「瀬野くん、起きてってば……!」
 さっきよりも少し強めに揺する。しかし、瀬野くんは全く起きず……。かくなる上は……
「……瀬野くん! 起きて!」
「痛っ!? え! なに!?」
 バンッと背中を思いっきり叩くと、瀬野くんが驚いたように飛び起きた。
「あ、えっと……おは、よう……」
「え? あ、うん。おはよう……。てか今何時?」
 めっちゃ眠いんだけどと言いながら目を擦る瀬野くんにそっと時計を指差す。
「……は? 五時!?」
 現在の時刻、朝の五時。窓の外では木に止まったスズメが太陽の光を浴びながら楽しそうにチュンチュンと鳴いている。心地の良い、素晴らしい朝だ。
「いやいやいや、早すぎるだろ」
 そう言って二度寝しようとベッドに戻る瀬野くん。おい、戻るな。早く準備しないと遅刻するぞ。
「そ、その……六時には家を、でで出るので……」
「…………六時?」
 ありえないと顔で訴えてくる彼にコクリと頷き肯定する。メールを送ろうとスマホで文章を打っている間に瀬野くんが寝ようとするので、なんとか声を出して頑張って会話しようとしている。
「あの、だって……学校、遠いので……」
 俺の言葉を聞いてここに来るまでにかかった時間を思い出したのだろう。瀬野くんがガバリと起き上がる。何度も言うが、学校まで二時間以上かかるのだ。うだうだしてたら遅刻してしまう。
 ぼーっとしてたら勝手に落ちてくる瞼を無理やりこじ開け、なんとか着替えようと制服を手に取る。
「あ」
――そうだ、瀬野くんいるんだった……。
 同性だから気にしなくていいとは思うのだが、なぜだか酷く緊張してしまう。体育の着替えは全く問題ないのに、なんでだ……!?
 俺が一人で悩んでいる間に瀬野くんは気にせず普通に着替えだしていた。
 昨日はとりあえず俺のパジャマを貸したが、俺より身長が高い瀬野くんにはサイズが合わなかったのか裾が少し短めだ。たった六センチ、されど六センチ。イケメンのくせに背まで高いのかよクソと内心文句を垂れてると、一向に着替え出さない俺を気にしてか瀬野くんが不思議そうに近寄ってきた。
「原田、着替えないの?」
「え? い、いや、着替える……」
「そう」
 瀬野くんと一緒にさっさと着替えてしまえばよかったと後悔した。一足先に制服に着替え終わった瀬野くんがなぜか俺の着替えをジッと見てくるのだ。
「あ、あの……」
「なに?」
「いや、あのえっと……さ先に、しし下降りてて、もらっても……?」
 俺の言葉にいやいやと手を振りながら「なんで俺一人で先に降りるんだよ」と瀬野くんがツッコむ。まあ昨日の両親のテンションの高さを見るに、一人でリビングに行っても瀬野くんが気まずいことはわかっているのでこちらも何も言わない。それにしても、ガン見され過ぎててこちらも気まずい。
「男同士なんだしそんな気にすることないだろ?」
――気にしますが!?
 学校でみんなが着替えているのと、二人きりの状態で相手に着替えをガン見されるのはまた別だ。恥ずかしすぎる。
 結局瀬野くんはベッドに座りながら、何故か俺の着替えを最後まで見守ったのだった。