駄菓子より甘い瀬野くん

 入学式から早一週間が経った。
 周りが楽しそうに話している中、俺は当たり前のように机に一人ポツンと取り残されていた。ぼっちである。

 あれから、何人か話しかけてくれた子はいた。しかし、急に話そうとするとあの自己紹介の時のようにテンパってしまう。せっかく話しかけてくれた子もみんな「あ、ごめんね、無理に話さなくていいよ」と笑顔で去ってしまうのだ。

 ごめん、話したくない訳じゃないんだ。話慣れてない人と会話しようとすると焦るだけで、少し待ってくれれば普通に会話できるんだ――などと説明することすらできなくて、結局俯いて黙ってしまう。

 クラスのみんなはそんな俺の姿を見て段々と話しかけなくなっていった。
 ――『きっと、一人が好きな子なんだろう。そっとしておいてあげよう』と。
 
 俺だって、本当はもっとクラスの子と話してみたい。放課後一緒に帰ったり、遊びに行ったりするのにも憧れている。友達が、欲しいのだ。
 しかし、俺にとっては友達になるまでの壁が高すぎる。どうしてもクラスメイトと会話ができない。
 高校こそ友達を作ろうと意気込んでいたが、やはり自分には到底無理な願いだった。
 そもそも、小・中と一緒に過ごし進級してきた彼らの輪の中に、人見知りでコミュ障の俺が入っていけるはずもなかったのだ。
 内心さみしく思いつつも、かと言って変にクラスメイトに絡まれてもしんどいだけだし、このまま一人の方が気楽でいいか……と無理やり自分自身を納得させ、お母さん特製の甘い玉子焼きを口に頬張った。

 ――そうだ、今までもずっと一人だった。今更なんとも思わない。あそこの『変な陽キャ集団』に絡まれるよりよっぽどマシだ!

 『変な陽キャ集団』こと、瀬野彰人とその取り巻きを遠くからこっそりと眺めた。
 俺の予想通り瀬野くんの周りには男女問わず常時人が集まり、キャアキャアと騒ぎ立てている。
 クラスの中心人物、スクールカーストの最上位の人間だ。
 
「ねぇ彰人く〜ん、今日カラオケ行かない?」
「お! いいじゃん! 行こうぜ彰人」
「ちょっと! 私たちは彰人くんを誘ってるんですけど」
「良いじゃん良いじゃん。ほら、みんなで行こ?」
「……まあ、彰人くんがそう言うなら」
「さっすが彰人! 心の友よ〜!」
「大袈裟だって。……ほら、早く予約とろ」

――あれ? でもなんだろう……。
 俺は瀬野くんの様子にどこか引っかかりを覚えた。
 クラスの中心にいる彼は、笑顔で周りの友人達と話している。それはとても楽しそうな、いかにも青春! という光景だ。何一つおかしなところなんてない。でも、どこか……。
――疲れてる? ううん、そんなんじゃなくて……。
 俺には、瀬野くんが心の底から楽しそうに笑っているようには見えなかった。まるで、無理やり作り笑いを浮かべているような……。

 そこまで考えて、俺はゆっくり首を横に振った。瀬野くんとは話したこともないのだ。勝手に考察して、心配しても瀬野くんにとってはいい迷惑でしかないだろう。
 それに、瀬野くんの周りには幼い頃から付き合いのある仲のいい友達があんなに沢山いるのだ。彼に寄り添ってくれる人が沢山いる。自分なんて、お呼びじゃないのだ。
 でも、一瞬思ってしまった。
――あんなに人に囲まれてるのに、楽しくないのかな?
 
 友達ができたことがない俺には、瀬尾くんの姿が心底不思議に映ったのだ。