駄菓子より甘い瀬野くん

 拝啓、お父様・お母様
 僕は今、ストーカーに遭っています。助けてください。あの、本当に、マジで。
 
「あ、あああああの! ななな何で……着いて、くるんですかっ……!」
「だって俺、原田と話したいもん」
 涙目になりながら廊下を全力ダッシュで逃げる俺と、それを全力ダッシュで追いかけてくる学年一のイケメン・瀬野くん。
 廊下にいた他の生徒たちも何だ何だと遠巻きに自分達を見てくる。恥ずかしすぎて今すぐにでも止まりたいが、止まったらイケメン(瀬野くん)に捕まってしまう。それだけは無理――!

 俺は息を上げながらも必死にイケメン(瀬野くん)から逃げていた。しかし、
「捕まーえた!」
「グエッ……!」
 ……止まらなくても捕まった。急に後ろからグイッと引っ張られるようにお腹を抱きしめられたため、喉の奥から蛙が潰れたような酷い声が出る。
 そもそも、万年運動不足の俺が、この学校にサッカー推薦で入ったイケメン(瀬野くん)から逃げ切れるはずもなかったのだ。後ろで俺を抱きしめているイケメンをそっと見上げると、彼は満面の笑みでこちらを見下ろしていた。
 わー、イケメンが笑うと周りに花が咲くんだな~!……なんて、関係のないことに意識を飛ばしていると、黙り込んだ俺をイケメンが心配そうに覗き込んできた。
「大丈夫? ごめん、強かったよな……!?」
 うん、強かった。ちょっぴり苦しかったよなんて、実際には言えないけど。
 イケメンは俺の様子を見て焦ったように少しだけ抱きしめる力を緩める。それでも逃げられないよう『少し』しか緩めないは流石と言うべきか、悲しむべきなのか、呆れるべきなのか……。
 またしても考え黙り込んでしまった俺を、またイケメンは心配そうに見下ろしてくる。
 そろそろ話さないと本気でずっとこのままになりそうだ。忘れているかもしれないが、ここは廊下だ。未だに大勢の生徒が俺たちを見つめている。
 意を決して俺はイケメンに話しかけた。
「そ、その……せせ瀬野くんは、お、俺に何の用、ですか……?」
「ん? あぁ、一緒に弁当食べよ?」
 イケメンはそう話しながら、何故か俺の頭をポンポンと撫でてきた。急なことで思わず固まってしまう。
 ――え、何……? 俺、なんで頭撫でられて……!?
 おそらく今俺の顔は真っ赤だろう。恥ずかしくて、つい顔を隠すように俯くが、イケメンはそんな俺の顔をクイッと顎クイで持ち上げて無理やり上を向かせてくる。バッチリとイケメンと目が合い、自分の顔からボッと火が出たのがわかった。
――やめろよ……。今俺、絶対変な顔してるって……!
 そんな俺の様子を見てイケメンは何故か嬉しそうで。それが俺にとっては悔しくて仕方がなくて、でも、どうしてか目を逸らせなくて……。
 涙目になりながら見つめる俺に満足げなイケメンは、その大きくて綺麗な目を細めてこう言い放った。

 
「ね、原田。早く俺に慣れて?」
 

――ど、どうしてこうなったぁぁぁぁ!?


 事の発端は、春にまで遡る。