「……はちみつ色だ」
友人の芹夏とオールでカラオケをしようと移動している途中、ふと空に目をやると、日が落ちて青い空がはちみつ色に染まっている光景が広がっていた。
「はちみつ?」
芹夏が聞き返したことで、私は自分が言葉を発していたことに気付いた。
私にとって、夕焼け空がはちみつ色だということはなにもおかしくないけれけど、芹夏が不思議そうにするから、変なことを言ってしまったような気がしてくる。
「灯里って、たまに詩人みたいなこと言うよね」
「そ、そうかな」
「そうだよ。今の、はちみつ色もだけど、桜吹雪は雪桜って言ってたし。あと、変なこだわりもある」
芹夏は右手の人差し指を立て、新発見をした発明家のように私のほうを見た。
そして頭の先から足先まで、品定めでもしているのかと思ってしまうような目で眺められた。
黒髪のショートカット、メイクは日焼け止めを塗っただけで、特になし。黒のワンポイントTシャツに灰色のパーカー。下は無難な青色ジーンズで、靴は高校時代から履いている黒のスニーカーだ。
改めて自分で見ても、地味な格好だと思う。
目の前にいる芹夏が髪を茶色に明るくしていたり、メイクがばっちりだったり、オシャレな服を着ているからこそ、余計にそう思えてくる。
「服に興味ないのに、ジャージでは出かけたくないって言ってたよね」
たしかに、芹夏に「服に興味ないの?」と聞かれたとき、「興味はないけど、ジャージで出かけるのはイヤかな」と答えた気がする。
それに関しては特別おかしいことではないと思うけど、芹夏は興味津々な目をして、ずいっと私に顔を近付けた。
「どうして?」
「どうしてって……」
特別、理由なんてないよ。
そう答えようと思ったけれど、脳裏にひとつの記憶が過ぎった。
――綺麗な蜂蜜色だね。
私が初めて好きになった人の、穏やかな言葉。
どんな顔をして言ったのかなんて覚えていないのに、ふたりで校舎から夕焼け空を見たことだけは、鮮明に思い出せる。
「灯里?」
私が固まってしまったから、芹夏はどこか心配そうに私を見ている。
聞いてはいけないことを聞いてしまっただろうかと考えているように見えたので、私は芹夏を安心させるために笑顔を作る。
「昔、そう言ってた人がいて、素敵な表現だなって覚えてただけだよ」
芹夏は「へえ」と言いながら、にんまりと笑った。
心配させたかもしれないと内心焦ったけれど、杞憂だったのかもしれない。
「好きな人?」
そんな話も空気も出したつもりはないのに、芹夏の勘が鋭すぎた。
私はそれに驚いてしまって、違うよと否定するには無理がある反応をしてしまった。
「……初恋相手、かな」
「そっかそっかあ」
芹夏の声が弾んでいるから、詳しく聞かれるのかと思ったが、カラオケ店に到着したことで芹夏の質問攻めから逃れることに成功した。
ドリンクバー付きのフリータイムで部屋を借り、それぞれジュースを注いでカラオケルームに向かう。
「それで、初恋相手ってどんな人だったの?」
ソファに座るやいなや、芹夏は目を輝かせて聞いてきた。
曲を予約するタブレットもマイクも取る気配を見せないから、歌うことはどうでもいいらしい。
私は観念してソファに腰を下ろし、懐かしい記憶を辿った。



