迷子の放送室で、君にだけ見つかりたい

休み時間の教室は、息をすると誰かの笑いに当たる。俺はノートの端の「固定」を慌てて指で隠した。隠す必要なんてないのに、隠した瞬間に余計怪しくて、自分で自分に腹が立つ。

「なに隠した?」

相澤が戻ってきて、覗き込む。距離が近いのに、声はいつも通り軽い。周りの空気も、そこだけ少し寄ってくる。俺は反射で否定した。

「隠してない」

「いや、隠しただろ」

「してないって」

「結城、否定が雑」

相澤が笑う。笑うのがずるい。ずるいのに救われる。教室の空気が“噂”じゃなく“コント”に寄るからだ。

「見せて」

「やだ」

「見せて」

「やだ」

「じゃあ当てるわ。……『固定』だろ」

当てられて、俺は固まった。教室の一角が一瞬だけ静かになる。やばい。終わった。心臓が跳ねる。だが相澤は、そこで一段だけ軽くする。

「うちの委員会用語、教室に持ち込むなって。規約違反」

「規約なんてないだろ!」

俺が突っ込むと、周りがクスクス笑う。笑い声が、助け舟みたいに流れる。相澤は真面目な顔で続けた。

「ある。第一条。結城が固まったら、俺が薄いコメディで救助すること」

「それお前が今作っただけだろ」

「第二条。作ったものは即施行」

「横暴すぎる」

「第三条。横暴は文化祭で証明済み」

「証明してない!」

俺の声が思ったより大きくて、また笑いが起きる。俺は頬が熱い。熱いのに、息が浅くならない。相澤が笑いながら、肩をすくめた。

「ほら、戻った。結城、今のは“横”じゃなく“ツッコミ”で復帰」

「復帰の仕方が変だろ」

「変でもいい。消えてない」

その一言だけ、相澤の声が少し落ちる。軽いコメディの底に、本音が混ざる。俺は反射で言い返せなくて、視線を逸らしてシャーペンを握り直した。

「……消えない」

小さく返すと、相澤が満足げに頷いた。

「よし。規約、遵守」

「だから規約ないって」

俺が言うと、相澤がまた笑う。周りもつられて笑う。教室の空気は噂になりかけて、笑いに溶けていく。俺は相澤の薄いコメディに救われたのが悔しくて、でも少しだけ、ありがたかった。