昼休みの教室は騒がしいのに、俺の周りだけ音が遠かった。机を寄せて弁当を広げる笑い声、窓際でスマホをいじる声、廊下を走る足音。その全部が薄い膜の向こうみたいで、俺は資料の束を抱えたまま立ち尽くしていた。
「ちょ、これ見て。パンフの教室番号、違くない?」
前の席の女子が声を上げ、数人が覗き込む。机の上に置かれた下書きのコピー。太字の見出しに、クラス出し物「迷子の放送室」。その下の案内に、うちの教室番号が一桁ずれていた。
「え、昨日結城が確認したって言ってなかった?」
「私、結城からOKって聞いたんだけど」
名前が飛んできた瞬間、胃が沈む。俺は弁当袋を持つ手を止め、コピーを取った。印刷の匂い。目に刺さる数字。違う。たしかに違う。でも、俺は昨日、確認したはずだ。相澤と二人で、黒板の前で、口に出して読み合わせた。
「……俺、確認した。はず」
声が掠れて、最後が弱くなる。「はず」を言った自分が嫌で、すぐに訂正したいのに言葉が続かない。周囲の視線が一斉に集まって、空気がぎゅっと狭くなる。
「じゃあ誰が直したの? データ触ったの誰?」
「先生に出す前の版だよね?」
質問が重なる。俺は答えを探して、頭の中でフォルダの構造を辿る。修正履歴、送信日時、添付ファイル名。思考は動いているのに、口が動かない。言い訳に聞こえるのが怖くて、説明が喉で固まる。
その時、後ろの席から椅子を引く音がした。相澤が立ち上がった気配が背中に来る。けど俺は振り返れない。コピーの数字だけを見つめたまま、胸の奥がじりじり熱くなっていく。
「誰の確認ミス?」という言葉だけが、黒板のチョークより白く残ったまま、消えなかった。
「ちょ、これ見て。パンフの教室番号、違くない?」
前の席の女子が声を上げ、数人が覗き込む。机の上に置かれた下書きのコピー。太字の見出しに、クラス出し物「迷子の放送室」。その下の案内に、うちの教室番号が一桁ずれていた。
「え、昨日結城が確認したって言ってなかった?」
「私、結城からOKって聞いたんだけど」
名前が飛んできた瞬間、胃が沈む。俺は弁当袋を持つ手を止め、コピーを取った。印刷の匂い。目に刺さる数字。違う。たしかに違う。でも、俺は昨日、確認したはずだ。相澤と二人で、黒板の前で、口に出して読み合わせた。
「……俺、確認した。はず」
声が掠れて、最後が弱くなる。「はず」を言った自分が嫌で、すぐに訂正したいのに言葉が続かない。周囲の視線が一斉に集まって、空気がぎゅっと狭くなる。
「じゃあ誰が直したの? データ触ったの誰?」
「先生に出す前の版だよね?」
質問が重なる。俺は答えを探して、頭の中でフォルダの構造を辿る。修正履歴、送信日時、添付ファイル名。思考は動いているのに、口が動かない。言い訳に聞こえるのが怖くて、説明が喉で固まる。
その時、後ろの席から椅子を引く音がした。相澤が立ち上がった気配が背中に来る。けど俺は振り返れない。コピーの数字だけを見つめたまま、胸の奥がじりじり熱くなっていく。
「誰の確認ミス?」という言葉だけが、黒板のチョークより白く残ったまま、消えなかった。
