体育館裏は、表の喧騒が嘘みたいに静かだった。薄い風がフェンスを鳴らし、遠くの拍手や呼び込みが丸い音として届くだけ。俺たちは機材のケースを運ぶふりをして、ほんの数分だけ外へ出た。誰にも見られない場所を選ぶのも、相澤の“追い詰めない”やり方だ。
「今、三分」
相澤が小声で言う。俺は頷いた。さっき「好き」と言った熱がまだ胸に残っていて、息が浅くなる。嬉しいのに怖い。怖いのに、逃げたくない。
相澤がケースを地面に置き、手袋を外した。素肌の指先が冷たい空気に触れて、白くなる。俺も無意識に手袋の縁を握る。相澤が俺の方へ一歩だけ近づいて、でも最後の距離は残したまま言った。
「結城。さっきの返事、ありがとう」
俺は「うん」としか言えない。言葉を足すと、また崩れそうだった。
相澤が手を上げる。触れる前に、確認。
「触る。短く。いい?」
俺は喉が鳴って、頷いた。親指じゃなく、ちゃんと頷いた。相澤の指先が、手袋の上から俺の手の甲に触れた。ほんの一瞬。押さえつけじゃなく、確かめるような接触。熱が走って、俺は息を止める。止めた息を、ゆっくり吐いた。
相澤はすぐ手を離す。離したのに、触れた場所だけが温かい。
「約束」
相澤が言う。声が静かで、逃げ道が残っているのに、芯がある。
「文化祭が終わるまで、告白の続きはしない。現場を回す。結城が横になったら横で止める。消えそうになったら固定で戻す」
俺は頷きながら、胸の奥で笑ってしまいそうになる。告白の続き、なんて言葉が現実にあるのが信じられないのに、相澤はそれを“ルール”に落とす。俺が扱える形にしてくれる。
「で、終わったら」
相澤が続ける。俺は先に言った。
「終わったら、話す」
相澤が小さく笑う。
「うん。体育館裏じゃなく、ちゃんと座れる場所で。結城のペースで」
俺は息を吸って、吐いて、最後に一つだけ足した。
「……逃げない。今度は言葉で言う」
相澤が頷いた。
「聞く。待つ。固定」
三分が終わる。風がフェンスを鳴らす。俺たちはケースを持ち上げて、表の喧騒へ戻った。短い接触は、それだけで十分だった。約束がある限り、俺はまた現場に戻れる。
「今、三分」
相澤が小声で言う。俺は頷いた。さっき「好き」と言った熱がまだ胸に残っていて、息が浅くなる。嬉しいのに怖い。怖いのに、逃げたくない。
相澤がケースを地面に置き、手袋を外した。素肌の指先が冷たい空気に触れて、白くなる。俺も無意識に手袋の縁を握る。相澤が俺の方へ一歩だけ近づいて、でも最後の距離は残したまま言った。
「結城。さっきの返事、ありがとう」
俺は「うん」としか言えない。言葉を足すと、また崩れそうだった。
相澤が手を上げる。触れる前に、確認。
「触る。短く。いい?」
俺は喉が鳴って、頷いた。親指じゃなく、ちゃんと頷いた。相澤の指先が、手袋の上から俺の手の甲に触れた。ほんの一瞬。押さえつけじゃなく、確かめるような接触。熱が走って、俺は息を止める。止めた息を、ゆっくり吐いた。
相澤はすぐ手を離す。離したのに、触れた場所だけが温かい。
「約束」
相澤が言う。声が静かで、逃げ道が残っているのに、芯がある。
「文化祭が終わるまで、告白の続きはしない。現場を回す。結城が横になったら横で止める。消えそうになったら固定で戻す」
俺は頷きながら、胸の奥で笑ってしまいそうになる。告白の続き、なんて言葉が現実にあるのが信じられないのに、相澤はそれを“ルール”に落とす。俺が扱える形にしてくれる。
「で、終わったら」
相澤が続ける。俺は先に言った。
「終わったら、話す」
相澤が小さく笑う。
「うん。体育館裏じゃなく、ちゃんと座れる場所で。結城のペースで」
俺は息を吸って、吐いて、最後に一つだけ足した。
「……逃げない。今度は言葉で言う」
相澤が頷いた。
「聞く。待つ。固定」
三分が終わる。風がフェンスを鳴らす。俺たちはケースを持ち上げて、表の喧騒へ戻った。短い接触は、それだけで十分だった。約束がある限り、俺はまた現場に戻れる。
