迷子の放送室で、君にだけ見つかりたい

相澤が先に歩き出したのを、俺はすぐ追えなかった。廊下の床の線を見つめたまま、胸の中で「好き」が何度も跳ねて、呼吸の入口を塞ぐ。返事いらない、と言われたのに、返さないままだと俺だけが“逃げた”みたいで嫌だった。

「相澤」

声が自分でも驚くほど小さい。相澤が立ち止まる。振り返らない。振り返らないで、待つ。待たれると詰まるのに、今日は詰まりながらでも言いたかった。

「今、横じゃない」

口が先にそう言って、俺は一度息を吸った。浅いままでもいい。三呼吸じゃ足りない熱が胸にある。それでも、言葉を落とす。

「……俺も、好き」

言った瞬間、世界が静かになった気がした。機材の残響も、遠くの呼び込みも、全部一枚薄い布の向こうに退く。怖い。名前をつけたら戻れない怖さが、遅れて来る。でも、それ以上に、言わずに逃げる方が怖かった。

相澤がほんの少しだけ息を吐く気配がした。笑わない。勝った顔もしない。ただ、確かめるように低く言う。

「結城、それ言って大丈夫?」

大丈夫かどうか分からない。分からないから、俺は“決め”を言うことにした。告白じゃなく、運用。俺が自分で自分を扱うための言葉。

「大丈夫じゃない。……怖い」

正直に言ったら、喉が少しだけ通った。続ける。

「でも、逃げない。いなくならない。消えない。――固定でいい」

固定、を俺が言うと、胸の奥のざわつきが少しだけ足場になる。相澤が初めて振り返って、目が柔らかくなる。

「うん。固定。返事、今はそれで十分」

十分、って言われて、肩の力が抜けそうになる。抜けたら崩れそうで、俺は手袋の中で親指を立てた。続行。

「文化祭、回す。中は相澤、外は俺。分担」

相澤が頷く。

「よし。行こう。終わったら——」

「終わったら、話す」

俺が先に言って、相澤が小さく笑った。その笑いが嬉しくて怖くて、でも俺は歩き出した。好きと言ってしまったあとでも、逃げずに並べる。今はそれだけで、十分に前へ進めた。