放送室のドアが閉まって、廊下の音が少しだけ遠のいた。機材の熱と、人の匂いと、試し鳴らしの残響。俺はスマホを胸に抱え直して、息を吐く。確認は終わった。終わったはずなのに、相澤がその場で動かずに立っているのが分かった。
「結城」
呼ばれた声が、さっきまでの作業の声と違う。軽くない。重いわけでもない。まっすぐで、逃げ道を残したまま、芯だけがある声。
「……なに」
俺は返事をしながら、逃げる準備をしてしまう。相澤はそれを見抜いたみたいに、一歩近づかずに言った。
「今日、言う。文化祭終わるまで待つつもりだったけど」
待つつもり。俺の胸が跳ねる。今は火消し、って何度も言ってきたのに、ここで崩すんだ、と分かってしまって、喉が詰まる。
相澤が続けた。
「結城のこと、最初から見てた」
最初から。言葉が大きすぎて、俺は一瞬、笑いそうになって笑えなかった。何を? いつから? 問いが浮かぶのに、口が動かない。
「委員会の最初、視聴覚室で。結城が資料揃えて、誰にも気づかれないように配ってた時」
記憶が戻る。俺が“仕事”をして、仕事でしか立っていなかった時。相澤はその時から見てた、と言う。見られてたことが恥ずかしくて、でも少しだけ救われるのが悔しい。
「俺、あの時思った。結城は、頑張り方が上手いふりして、下手だって」
上手いふり。下手。言われたら反発したくなるのに、今日は反発が出ない。図書室脇の「刺さった」と同じだ。事実だけが刺さる。
相澤は、そこで言い切らない。俺を追い詰めない間を置いて、最後だけ短く言った。
「だから俺、横に立つって決めた。最初から」
横。固定。半分。全部、後から作ったルールじゃなくて、相澤の最初の決めだった。胸の奥が熱くなって、息が浅くなる。怖いのに、嬉しい。嬉しいのに、怖い。
「……それ、告白?」
俺の声は掠れていた。言った瞬間、言い過ぎたと思って視線を逸らす。相澤は笑わない。代わりに、まっすぐ答えた。
「告白未満。今の結城に“名前”は重いだろ」
見透かされる。悔しいのに、助かる。
「でも、事実は言う。俺は結城が好きだ。だから見てた。だから止めた。だから待つ」
好き、という単語が落ちた瞬間、廊下の音が一段遠くなった。俺は何も言えない。言えないけど、消えない。相澤が続ける。
「返事いらない。文化祭、回そう。終わったら話す。固定」
固定。
その言葉で、俺はようやく息を吐けた。告白は刺さった。刺さったのに、突き放されていない。返事を求められていない。だから俺は、逃げずに立っていられる。
俺は手袋の中で親指を立てた。続行の合図。
相澤がそれを見て、ほんの少しだけ笑って、先に歩き出した。
「結城」
呼ばれた声が、さっきまでの作業の声と違う。軽くない。重いわけでもない。まっすぐで、逃げ道を残したまま、芯だけがある声。
「……なに」
俺は返事をしながら、逃げる準備をしてしまう。相澤はそれを見抜いたみたいに、一歩近づかずに言った。
「今日、言う。文化祭終わるまで待つつもりだったけど」
待つつもり。俺の胸が跳ねる。今は火消し、って何度も言ってきたのに、ここで崩すんだ、と分かってしまって、喉が詰まる。
相澤が続けた。
「結城のこと、最初から見てた」
最初から。言葉が大きすぎて、俺は一瞬、笑いそうになって笑えなかった。何を? いつから? 問いが浮かぶのに、口が動かない。
「委員会の最初、視聴覚室で。結城が資料揃えて、誰にも気づかれないように配ってた時」
記憶が戻る。俺が“仕事”をして、仕事でしか立っていなかった時。相澤はその時から見てた、と言う。見られてたことが恥ずかしくて、でも少しだけ救われるのが悔しい。
「俺、あの時思った。結城は、頑張り方が上手いふりして、下手だって」
上手いふり。下手。言われたら反発したくなるのに、今日は反発が出ない。図書室脇の「刺さった」と同じだ。事実だけが刺さる。
相澤は、そこで言い切らない。俺を追い詰めない間を置いて、最後だけ短く言った。
「だから俺、横に立つって決めた。最初から」
横。固定。半分。全部、後から作ったルールじゃなくて、相澤の最初の決めだった。胸の奥が熱くなって、息が浅くなる。怖いのに、嬉しい。嬉しいのに、怖い。
「……それ、告白?」
俺の声は掠れていた。言った瞬間、言い過ぎたと思って視線を逸らす。相澤は笑わない。代わりに、まっすぐ答えた。
「告白未満。今の結城に“名前”は重いだろ」
見透かされる。悔しいのに、助かる。
「でも、事実は言う。俺は結城が好きだ。だから見てた。だから止めた。だから待つ」
好き、という単語が落ちた瞬間、廊下の音が一段遠くなった。俺は何も言えない。言えないけど、消えない。相澤が続ける。
「返事いらない。文化祭、回そう。終わったら話す。固定」
固定。
その言葉で、俺はようやく息を吐けた。告白は刺さった。刺さったのに、突き放されていない。返事を求められていない。だから俺は、逃げずに立っていられる。
俺は手袋の中で親指を立てた。続行の合図。
相澤がそれを見て、ほんの少しだけ笑って、先に歩き出した。
