お化け屋敷入口は、朝から甘いポップコーンの匂いと、暗幕の中の冷たい空気が混ざっていた。通路の先で流すSEが小さく鳴って、待機列のざわめきが波みたいに押し寄せる。俺は受付台の横で、シフト表を指でなぞっていた。
「……え、ここ空いてる」
次の回の誘導担当、名前が抜けてる。いや、抜けてるんじゃない。“来てない”。スマホで連絡しても既読がつかない。列は伸びる。時間は進む。係の子が焦った顔で言う。
「結城くん、どうしよ、入口詰まってきた!」
喉まで「俺が入る」が上がる。入れば回る。回れば正解。正解のはずなのに、胸がきゅっと締まる。入口に立てば、説明、誘導、クレーム対応。全部が同時炎上みたいに見える。
その時、相澤が入口の暗幕の影から出てきた。手袋をはめたまま、俺の横に立たず、半歩外側で止まる。
「穴?」
「……誘導一人来てない。俺が――」
言いかけた俺を、相澤が言葉だけで止める。
「分ける。結城、今どっち?」
親指じゃなく、言葉。俺は息を吸って、決めた。
「……今、横」
言った瞬間、恥ずかしさより先に、胸の圧が少し下がる。相澤が頷く。
「横、了解。三分――じゃなくて、今日は“役割横”。結城は受付裏で人数カウントと時間管理。入口に出ない」
「でも穴が――」
「穴は俺が埋める。入口立つ。説明もやる。結城は回す。二人で回す」
相澤はそう言って、列の先頭に向けて声を張った。「お待たせしてます!次の回、五分後です!」空気が少しだけ整う。俺は受付台の下でペンを握り直し、シフト表に赤で線を引いた。穴を“穴のまま”にしない。埋める場所を決める。俺が全部じゃない。それだけで、入口の暗幕が少しだけ怖くなくなった。
「……え、ここ空いてる」
次の回の誘導担当、名前が抜けてる。いや、抜けてるんじゃない。“来てない”。スマホで連絡しても既読がつかない。列は伸びる。時間は進む。係の子が焦った顔で言う。
「結城くん、どうしよ、入口詰まってきた!」
喉まで「俺が入る」が上がる。入れば回る。回れば正解。正解のはずなのに、胸がきゅっと締まる。入口に立てば、説明、誘導、クレーム対応。全部が同時炎上みたいに見える。
その時、相澤が入口の暗幕の影から出てきた。手袋をはめたまま、俺の横に立たず、半歩外側で止まる。
「穴?」
「……誘導一人来てない。俺が――」
言いかけた俺を、相澤が言葉だけで止める。
「分ける。結城、今どっち?」
親指じゃなく、言葉。俺は息を吸って、決めた。
「……今、横」
言った瞬間、恥ずかしさより先に、胸の圧が少し下がる。相澤が頷く。
「横、了解。三分――じゃなくて、今日は“役割横”。結城は受付裏で人数カウントと時間管理。入口に出ない」
「でも穴が――」
「穴は俺が埋める。入口立つ。説明もやる。結城は回す。二人で回す」
相澤はそう言って、列の先頭に向けて声を張った。「お待たせしてます!次の回、五分後です!」空気が少しだけ整う。俺は受付台の下でペンを握り直し、シフト表に赤で線を引いた。穴を“穴のまま”にしない。埋める場所を決める。俺が全部じゃない。それだけで、入口の暗幕が少しだけ怖くなくなった。
