迷子の放送室で、君にだけ見つかりたい

教室に入った瞬間、空気が「前日」の匂いをしていた。机の上はカッターとテープとチラシの束、誰かの買ってきたお菓子の袋。いつもなら笑い声が勝つのに、今日は声が刺さる。

「結城! 本部からまた連絡!」
「え、うちのクラス出し物、開始時間変わったって…マジ?」
「受付の看板、文字でかすぎって言われたんだけど!」
「暗幕、足りない! あと一枚どこ!?」
「チケットの色、間違ってるって先生が…!」

同時炎上。頭の中で警報が鳴る。――俺が全部やる、が喉まで上がってくる。言えば早い。早いけど、また削れる。

「待って!」

俺の声が裏返りそうになって、慌てて息を吸う。机の上にメモ帳を広げて、ペンを走らせた。優先順位。期限。誰に振るか。書けば、崩れない。

「今、四つ。まず“時間変更”は掲示差し替え。次“看板”は文字サイズだけ直す。暗幕は倉庫確認。チケット色は…先生に現物見せて判断」

「誰がやるの?」と誰かが言う。そこでまた、俺の癖が立ち上がる。俺が、俺が、と言いそうになる。

「結城」

相澤の声が、背中に落ちた。振り返ると、相澤はいつも通りの顔で立っている。いつも通りの顔のくせに、目だけは“今のやつ”を見てる。

俺は机の下で親指を立てた。続行。相澤が小さく頷く。

「時間変更、俺と二人で掲示差し替え。看板は美術部の二人、文字だけ直せる?」
「できる!」と返事が返る。
「暗幕は俺が倉庫行く。結城、チケットと先生行ける?」

“行ける?”が、押し付けじゃない選択になっていて、胸が少しだけ楽になる。俺は頷いた。

「……行ける。現物持つ。先生の許可取る」

「よし。結城、全部抱えるな。メモ残して戻ってこい」

相澤が言い切る。教室のざわめきが、少しだけ「動き」に変わる。俺はチケットの束を掴んで立ち上がった。手が震えている。でも、震えたままでもいい。今は走る。走りながら、戻る場所があることだけを確認して、俺は教室を飛び出した。