束を揃え終えた紙は、机の上で綺麗に角が揃っている。揃っているのに、胸の奥は揃わないままだった。倉庫で触れた指先の熱は、手袋の内側にまだ残っていて、作業の音に紛れたはずなのに、ふとした拍子に思い出してしまう。
相澤が印刷機の電源を落とし、「よし」と短く言った。いつも通りの区切り。いつも通りの声。俺はその“いつも通り”に甘えたくて、でも同時に、怖かった。いつも通りに戻したからこそ、戻したまま流れていくかもしれない。固定って決めたのに、決めただけで何も変わらないかもしれない。
「相澤」
呼ぶと、相澤がすぐに振り返る。「ん?」の顔。待つ顔。俺はそこでまた、謝ろうとした時みたいに詰まった。言葉が出ない。出したいのに、出すと重くなる。重くなるのが怖い。重いのに、軽くしたくない。
俺は手袋の指先を握りしめて、やっと一行だけ落とした。
「……終わったら、話したい」
言った瞬間、心臓が跳ねた。今のは告白じゃない。告白じゃないはず。でも“話したい”は、逃げ道を塞ぐ言葉だ。相澤の目が一瞬だけ柔らかくなって、俺はそれだけで息が詰まりそうになる。
「うん」
相澤はそれ以上、訊かない。何を? どういう意味? いつ? そういう追い込みをしない。追い込みをしないのに、ちゃんと受け取る。
「文化祭の段取りが終わったら?」
相澤が確認の形にしてくれる。俺は小さく首を振った。
「……今日の。終わったら」
相澤が一拍置いて、笑わずに頷いた。
「了解。終わったら、話す。固定」
固定、という言葉が、手すりみたいに効く。でも同時に、不安が残る。話すって言っても、何を話す? 名前は付けないって決めたのに、名前に近いところへ落ちてしまいそうで怖い。落ちたら戻れない気がする。戻れないのが怖いのに、戻りたくないわけじゃない。
相澤が机の上の束を持ち上げて、出口の方へ歩き出す。俺も続く。歩きながら、手袋の中で親指を立てた。続行。続行だけど、心の奥には小さな横が残っている。三分じゃ足りない横。言葉にするにはまだ早い横。
それでも俺は、相澤の背中を見失わないように歩いた。終わったら、話す。その約束だけが、今日の不安を薄く支えていた。
相澤が印刷機の電源を落とし、「よし」と短く言った。いつも通りの区切り。いつも通りの声。俺はその“いつも通り”に甘えたくて、でも同時に、怖かった。いつも通りに戻したからこそ、戻したまま流れていくかもしれない。固定って決めたのに、決めただけで何も変わらないかもしれない。
「相澤」
呼ぶと、相澤がすぐに振り返る。「ん?」の顔。待つ顔。俺はそこでまた、謝ろうとした時みたいに詰まった。言葉が出ない。出したいのに、出すと重くなる。重くなるのが怖い。重いのに、軽くしたくない。
俺は手袋の指先を握りしめて、やっと一行だけ落とした。
「……終わったら、話したい」
言った瞬間、心臓が跳ねた。今のは告白じゃない。告白じゃないはず。でも“話したい”は、逃げ道を塞ぐ言葉だ。相澤の目が一瞬だけ柔らかくなって、俺はそれだけで息が詰まりそうになる。
「うん」
相澤はそれ以上、訊かない。何を? どういう意味? いつ? そういう追い込みをしない。追い込みをしないのに、ちゃんと受け取る。
「文化祭の段取りが終わったら?」
相澤が確認の形にしてくれる。俺は小さく首を振った。
「……今日の。終わったら」
相澤が一拍置いて、笑わずに頷いた。
「了解。終わったら、話す。固定」
固定、という言葉が、手すりみたいに効く。でも同時に、不安が残る。話すって言っても、何を話す? 名前は付けないって決めたのに、名前に近いところへ落ちてしまいそうで怖い。落ちたら戻れない気がする。戻れないのが怖いのに、戻りたくないわけじゃない。
相澤が机の上の束を持ち上げて、出口の方へ歩き出す。俺も続く。歩きながら、手袋の中で親指を立てた。続行。続行だけど、心の奥には小さな横が残っている。三分じゃ足りない横。言葉にするにはまだ早い横。
それでも俺は、相澤の背中を見失わないように歩いた。終わったら、話す。その約束だけが、今日の不安を薄く支えていた。
