迷子の放送室で、君にだけ見つかりたい

校門を出ると、夕方の風が汗を冷やして、肩が軽くなるはずだった。なのに俺の肩はまだ固い。頭の中に締切表が貼り付いたままで、歩道の白線すらチェック欄に見える。

「結城、歩くの速」

後ろから相澤の声。振り返ると、相澤は片手をポケットに突っ込みながら、もう片方で俺の資料袋を指差した。

「それ、持つ」

「いいって。俺のだし」

「結城のだし、俺のでもある。ペアなんだろ?」

言い返す隙もなく、相澤は俺の手元にすっと手を伸ばした。俺が止めるより早い。資料袋の取っ手が、俺の指から抜けていく。反射で掴み返そうとして、空振りした。

「おい、勝手に――」

「勝手にって言うなよ。腕、死んでる顔してたぞ」

相澤は軽く言って、資料袋を肩にかけ直す。重さが移った瞬間、俺の腕が嘘みたいに軽くなって、逆に落ち着かなくなる。

「重いだろ」

「重いのは結城の顔」

「……は?」

思わず足が止まりそうになって、俺は慌てて歩幅を合わせた。相澤は笑っている。さっき印刷室前で見せた真顔とは違う、いつもの軽さ。でも、軽さの奥に、俺を見てる感じがある。

「顔って何だよ。俺、そんなに顔に出てた?」

「出てる。『締切』『責任』『俺がやる』が全部顔に書いてある」

「書いてない」

「書いてるって。ほら今も」

相澤は資料袋を揺らしながら、俺の横顔を覗き込む。覗き込む距離が近くて、俺は無意識に少しだけ外側へ寄った。けど、相澤は追ってこない。追ってこないのに、視線だけは外れない。

「……さっきの、任せていいってやつ」

俺が口にすると、自分でも驚くくらい声が小さかった。

「ん?」

「別に、嫌じゃない。……ただ、迷惑かけたくない」

言った瞬間、胸の奥がひゅっと縮む。迷惑。俺の口癖。言ったら終わりみたいな、逃げの言葉。

相澤は少しだけ歩く速度を落として、俺の横に並んだまま言った。

「迷惑なら、俺が持たない。今持ってるってことは、迷惑じゃない」

簡単な理屈みたいに言うのに、妙に効く。俺は返事ができず、アスファルトの小さな石を目で追った。

駅へ向かう分かれ道が近づく。夕焼けがビルの隙間に刺さって、影が長く伸びる。相澤は資料袋の取っ手を握り直して、当たり前みたいに言った。

「明日も、ここで合流な。朝当番、忘れんなよ」

その一言が、予定表みたいに俺の中に貼り付いた。資料袋を取られた軽さより、明日も続くことのほうが、なぜかずっと重かった。