「うん。受け取る」
相澤の返事は短いのに、ちゃんと重みがあった。受け取る、って言い方は、許すとも違うし、流すとも違う。俺の「ごめん」を、ただそこに置かせてくれる。図書室脇の静けさに、その言葉だけが残る。
相澤は俺の目を見ようとしない。見られると俺が逃げるのを知ってるみたいに、視線を少しだけ外したまま言った。
「俺も正直に言う」
心臓が一拍跳ねる。正直、は怖い。正直は名前を変える。そう身構えたのがバレたのか、相澤は急がない。
「昨日、結城が廊下で先に行ったとき」
相澤が一度息を吸う。
「結構、刺さった」
刺さった。そんな言い方をされると、俺の胸がぎゅっと縮む。責められてるわけじゃないのに、痛い。相澤は続けた。
「でも、追いかけなかった。追いかけたら結城がもっと遠くするって分かったから」
俺は息を止めた。図書室の向こうのページをめくる音が、やたらはっきり聞こえる。相澤の声はそれでも落ち着いている。
「刺さったって言っても、怒ってない。結城の逃げ方、分かるから」
分かる。
分かられるのが怖いはずなのに、今は少し救いになる。相澤はそこで終わらせずに、でも突き放さない距離で言葉を置く。
「俺、結城に置いていかれたくない。結城が『置いていかれるのが嫌』って言ったのと同じ」
同じ。俺の喉がまた詰まる。相澤は“同じ”の先を勝手に膨らませない。名前を付けない。代わりに、具体だけを言う。
「だから、固定。朝も夜も。結城が戻れる場所を作る。——それが俺のやり方」
俺はようやく息を吐いた。固定が鎖じゃなく手すりだって、相澤は分かって使ってる。俺はその手すりに掴まってるだけで、格好悪いって思ってた。けど相澤は、それを格好悪いとは言わない。
「……刺さったなら、言えよ」
出てきたのは反抗じゃなく、弱い声だった。相澤は肩をすくめる。
「言ったじゃん。今」
それだけで、少し笑いが混ざる。混ざる笑いが、軽すぎなくて丁度いい。俺の胸の奥の熱が、少しだけ落ち着く。
相澤が最後に、ちゃんと線を引くみたいに言った。
「結城。謝ってくれてありがとう。で、俺も言う。——昨日の分担、強かった。怖かったなら、ごめん」
ごめん。相澤の口から出ると、俺の「ごめん」と同じ重さになる。上下がなくなる。二人になる。
俺は小さく頷いた。図書室脇の静けさの中で、言葉が足りなくても、突き放されてないだけで十分だと思えた。
相澤の返事は短いのに、ちゃんと重みがあった。受け取る、って言い方は、許すとも違うし、流すとも違う。俺の「ごめん」を、ただそこに置かせてくれる。図書室脇の静けさに、その言葉だけが残る。
相澤は俺の目を見ようとしない。見られると俺が逃げるのを知ってるみたいに、視線を少しだけ外したまま言った。
「俺も正直に言う」
心臓が一拍跳ねる。正直、は怖い。正直は名前を変える。そう身構えたのがバレたのか、相澤は急がない。
「昨日、結城が廊下で先に行ったとき」
相澤が一度息を吸う。
「結構、刺さった」
刺さった。そんな言い方をされると、俺の胸がぎゅっと縮む。責められてるわけじゃないのに、痛い。相澤は続けた。
「でも、追いかけなかった。追いかけたら結城がもっと遠くするって分かったから」
俺は息を止めた。図書室の向こうのページをめくる音が、やたらはっきり聞こえる。相澤の声はそれでも落ち着いている。
「刺さったって言っても、怒ってない。結城の逃げ方、分かるから」
分かる。
分かられるのが怖いはずなのに、今は少し救いになる。相澤はそこで終わらせずに、でも突き放さない距離で言葉を置く。
「俺、結城に置いていかれたくない。結城が『置いていかれるのが嫌』って言ったのと同じ」
同じ。俺の喉がまた詰まる。相澤は“同じ”の先を勝手に膨らませない。名前を付けない。代わりに、具体だけを言う。
「だから、固定。朝も夜も。結城が戻れる場所を作る。——それが俺のやり方」
俺はようやく息を吐いた。固定が鎖じゃなく手すりだって、相澤は分かって使ってる。俺はその手すりに掴まってるだけで、格好悪いって思ってた。けど相澤は、それを格好悪いとは言わない。
「……刺さったなら、言えよ」
出てきたのは反抗じゃなく、弱い声だった。相澤は肩をすくめる。
「言ったじゃん。今」
それだけで、少し笑いが混ざる。混ざる笑いが、軽すぎなくて丁度いい。俺の胸の奥の熱が、少しだけ落ち着く。
相澤が最後に、ちゃんと線を引くみたいに言った。
「結城。謝ってくれてありがとう。で、俺も言う。——昨日の分担、強かった。怖かったなら、ごめん」
ごめん。相澤の口から出ると、俺の「ごめん」と同じ重さになる。上下がなくなる。二人になる。
俺は小さく頷いた。図書室脇の静けさの中で、言葉が足りなくても、突き放されてないだけで十分だと思えた。
