迷子の放送室で、君にだけ見つかりたい

次の瞬間、相澤の笑いがふっと消えて、空気が変わった。さっきまでの軽口が嘘みたいに、目だけが真っ直ぐになる。俺の「頼む」を受け取った顔だった。

「結城」

呼ばれて、俺は反射で背筋を正した。怒られる、じゃない。けど、何かを言われる前の緊張が走る。

「今の、きつかった。……でも、正しい」

相澤がそう言ったのが意外で、俺は一瞬言葉を失った。いつもみたいに「真面目〜」で流すと思っていた。なのに相澤は、流さなかった。

「俺、締切のこと軽く言ったつもりない。けど、結城が嫌なら直す」

「……嫌とかじゃなくて」

俺は目を逸らしそうになって、踏みとどまる。逃げる癖を出したら、もっと面倒になる。相澤は俺の沈黙を急かさず、印刷室前の掲示を見上げたまま、言葉を続けた。

「結城、さっき“焦ってる”って言ったじゃん。焦ってる時の結城、たぶん……全部一人で背負う顔になる」

「……」

当たっている。だから何も言えない。

相澤は小さく息を吐いて、俺のほうに視線を戻した。その目が、変に真面目で、俺の心臓が一拍だけ乱れる。

「俺さ、手足って言ったけど。ほんとにそうする。動く。回収する。揉めたら俺が前に出る」

俺は、頷くのも悔しくて、ペンを指で回した。落ち着け、と自分に言い聞かせる。相澤は笑わないまま、俺の手元の資料を一枚取って見せた。

「これ、テンプレ? 回収用?」

「……そう。団体名、担当者、提出日、修正メモ。抜けたら終わるから」

「終わらせない。――結城が終わりそうになったら、俺が止める」

止める。そういう言い方をするやつだろうか。俺は驚いて、ようやく相澤の顔を見た。相澤は照れもせずに、当然みたいにそこに立っている。

「でさ」

急に、声の温度が少しだけ柔らかくなる。真顔のままなのに、刺のない音。

「任せていい?」

その言葉が、胸の奥に小さく刺さって抜けない。任せる、という単語が、俺の中ではずっと怖いものだった。任せたら、相手に迷惑をかける。任せたら、失敗したとき責められる。任せたら、頼りきってしまう。

「……任せる、って言い方は」

俺はやっとそれだけ言って、喉を鳴らした。相澤は、わずかに口角を上げる。でも、茶化す笑いではない。

「じゃあ、頼らせて。俺にも仕事させて」

印刷室の扉がまた開く音がして、紙の匂いが強くなる。俺は視線を資料に落としたまま、小さく頷いた。頷いたことがバレるのが嫌で、ペン先でチェック欄に丸を一つ付けた。だけど、その「任せていい?」は、丸よりはっきり俺の中に残った。