迷子の放送室で、君にだけ見つかりたい

「……分けた、って」

口の中で反芻した瞬間、胸の奥がざらっとした。正しい。相澤の言ってることは正しい。だから余計に、跳ね返したくなる。俺は二枚目のルーズリーフをめくりながら、わざと強めに言った。

「俺、子どもじゃない」

相澤が印刷室の方へ向かいかけて、足を止める気配がした。けど振り返らない。振り返らないのが、腹立つ。守られてるみたいで。

「送信文、読まないって何だよ。俺が読んで確認すれば——」

「結城、今は線」

「分かってる。分かってるけど…俺だって判断できる」

声が尖って、自分でも嫌になる。紙の上の矢印が少し歪んだ。俺はペンを握り直して、力を入れた。綺麗に引けば落ち着くはずなのに、今日は逆だ。綺麗に引くほど、相澤に“役割”を固定されてる気がしてくる。

「結城」

相澤が低く呼んだ。優しい声じゃない。止める声だ。俺は反射で顔を上げずに言い返した。

「俺が全部やると失敗になる? じゃあ、俺が失敗したら困るってことだろ。俺が“危ないやつ”みたいに扱うなよ」

言った瞬間、喉が熱くなる。違う。危ないのは俺じゃなく、俺の癖だ。分かってるのに、分かってるからこそ、認めたくなくて尖る。

相澤は黙った。黙って、それから一歩だけ近づく。近いのに触れない距離のまま。

「危ないって言ってない」

「言ってるのと同じだ」

「違う」

相澤の声が、いつもより少しだけ硬い。

「結城が“全部背負う癖”は、危ない。結城が危ないんじゃない」

正論が、また胸を刺す。俺は言い返せないのに、黙るのも負けみたいで、ペン先で紙をトントン叩いた。時間がない。13:20。時計の数字が、俺の尖りに追い打ちをかける。

「……じゃあさ」

やっと出た声は、尖りのまま震えていた。

「俺が読んだら抱える、って決めつけないで。俺だって——今日は、抑える」

言い終わる前に、相澤が短く息を吐いた。怒ってるんじゃない。焦ってるのも、たぶん同じだ。

「抑えるの、今日だけで足りるならいい」

その言い方が、痛い。今日だけじゃないって、俺が一番知ってるから。俺は二枚目の図面に、避難導線から離す案の矢印を引いた。線が引けるたびに、尖りが少しずつ削れていく。削れて、最後に残ったのは、情けないくらい小さい本音だった。

(分けたくないんじゃない。置いていかれたくないだけだ)

でも、それはまだ言えなかった。