迷子の放送室で、君にだけ見つかりたい

「結城、手止まってる」

相澤の声で、俺はペン先を紙から離した。図面の矢印が途中で途切れていて、そこだけ息が詰まったみたいに見える。焦りがまた喉まで上がってきて、「俺が全部まとめて送る」と言いかけた。

「……俺がやる。送信まで——」

「だめ」

相澤が即答した。強いのに、刺々しくない。止めるための言葉だ。

「送信は俺。先生確認も俺。結城は図面だけ。名前も責任も、分割する」

分割、という単語が妙に現実的で、胸の奥の警報が少しだけ下がる。俺は反発したくて唇を開いたのに、相澤が先に続けた。

「結城が全部やると、“全部”が結城の失敗になる。俺はそれ嫌だ」

嫌だ、が真面目で、俺は言い返せなかった。相澤は俺の図面を覗き込まず、床にしゃがんで視線の高さを合わせる。近いのに遠い距離。押してこない距離。

「いまやること、四つ。口で言うぞ」

相澤が指を折る。

「一、タイトル変更。『案内放送室』。迷うな」
「二、QR削除。画像差し替え」
「三、図面。現状案+“避難導線から離す案”の二枚」
「四、送信文。俺が書く。結城は読まない」

「読まない?」

思わず聞き返すと、相澤が頷いた。

「読まない。結城、読んだら直したくなる。直したら抱える。だから俺が送る。結城は線だけ引け」

線だけ引け、が命令みたいで、でも救いだった。俺は小さく息を吸って、途切れていた矢印を引き直す。入口→受付→通路→折り返し→出口。避難導線側に赤で×。移動案は反対側に矢印。必要最低限の注記だけ書く。

相澤が立ち上がりながら、最後に一言落とす。

「結城、いまのは“止めた”んじゃなくて“分けた”。一緒な」

一緒。
その言葉に、俺の手が少しだけ軽くなる。廊下の時計が刻む音が急に現実に戻って、俺は図面の二枚目をめくった。時間はない。でも、背負う重さは半分だ。