迷子の放送室で、君にだけ見つかりたい

「結城の中の何かだろ」
相澤の言葉が正しすぎて、俺は言い返せなくなった。正しい言葉は、反論の入口を塞ぐ。塞がれると、俺は黙るしかない。黙るしかないのに、黙ると相澤の“踏み込まない優しさ”がさらに目立って、胸が痛む。

段ボールの角を押していた指先が、じんと痺れてくる。紙が少し凹んで、戻らない。戻らない凹みを見ると、俺の中のざわつきも同じだと思ってしまう。言葉にしなければ、戻らない。分かっているのに、言葉にした瞬間に何かが壊れる気がして怖い。

相澤は黙って待つ。待つのがうまい。待つうまさが、ずるい。俺は待たれると焦る。焦って、余計に言えなくなる。自分で自分の喉を締めているみたいで、息が浅くなる。

「……」

声にならない音だけが喉で擦れる。相澤が「大丈夫」と言いかけて、やめたのが分かった。言えば俺がまた“平気”で逃げるのを知ってるんだろう。だから何も言わない。何も言わないまま、近いのに遠い距離を保つ。俺はそれに救われているのに、救われていることが悔しい。

(言えないなら、合図)

親指のルールを思い出す。俺は手袋の中で親指を横に倒した。言葉はいらない。場所を変える。三分。そこで呼吸だけ整える。そう決めたのに、相澤がそれを見た瞬間、俺の胸がさらに痛くなる。

「横、ね」

相澤の声が静かで、責める温度がない。ないのに、俺は申し訳なくなる。場所を変えるのは俺の権利のはずなのに、相澤に手間をかける気がしてしまう。そうやってまた、俺は俺を小さくする。

相澤は動かない。まず、俺の顔を見ない。視線を外す。俺が崩れないように。崩れないように、って思われるのが、また痛い。

「結城」

相澤が呼ぶ。俺は返事ができない。声を出すと、情けなさが漏れそうで怖い。相澤はそれでも続ける。

「沈黙でいい。今日は、言い返さなくていい」

その言葉が、許可みたいに落ちてきて、俺はようやく息を吐いた。吐いた息が、倉庫の暗い空気に混ざって消える。言い返せないまま、沈黙のまま、俺はそこに立っていた。距離は近い。なのに、俺の中の遠さだけが、まだ縮まらない。