迷子の放送室で、君にだけ見つかりたい

駅までの道は、人の流れが途切れると急に静かになる。相澤は俺の半歩外側を歩いたまま、余計な話をしない。さっきまでなら、何か冗談を言って空気を軽くしていたはずなのに、今日はそれをしない。しないことが、逆に優しい。優しいのに、その優しさが痛い。

「結城」

相澤が、歩道の白線を踏まないように歩きながら呼ぶ。俺は返事を遅らせて、「なに」とだけ返した。素っ気ない。分かってる。でも止められない。

「確認だけ。怒ってる?」

「怒ってない」

即答した自分の声が、嘘っぽい。怒ってない。怒ってるわけじゃない。ざわついてるだけだ。相澤は「そっか」と頷いて、そこで踏み込まない。踏み込まないのが、また痛い。踏み込んでくれたら、反発して終わらせられるのに。

「じゃ、怖い?」

相澤が次を聞いた。質問が短い。答えも短くできるようにしている。俺は息を吸って、吐きながら言った。

「……ちょっと」

「原因、分かる?」

「分かる」

言った瞬間、心臓が跳ねた。分かる。分かるのに言いたくない。言ったら俺がみっともないやつになる。さっき廊下で遠巻きに見ていた自分が、まるで小学生みたいで嫌だ。

相澤はそこでまた一歩引く。

「言わなくていい。今日の特別枠、22:30。そこで言うか、言わないか選べ」

言わなくていい、が優しい。優しいのに、選べと言われると逃げられない。俺は唇を噛んだ。

「……今言わない」

「OK」

相澤は即座に受け取って、話題を変えた。

「明日、突っ張り棒取りに行く。朝当番のあと。親指で合図、覚えてる?」

「……覚えてる」

「よし。じゃ、今日はここまで」

ここまで。区切り。俺のための区切り。勝手に区切られてるのに、救われてしまうのが悔しい。

信号待ちで、相澤がほんの少しだけ俺の方を見る。視線だけで「置いていかない」を言ってるみたいだった。俺は目を合わせられず、代わりに手袋の中で親指を立ててみせた。見せたつもりが、見せられていたのかもしれない。

相澤が小さく笑って、声を落とす。

「続行、ね」

その一言が、胸のざわつきの上にそっと布をかけるみたいで、俺はようやく、息を吐けた。優しさが痛いのは変わらない。けど痛いまま、前に進める気がした。