迷子の放送室で、君にだけ見つかりたい

壁際に寄ったまま、俺は“掲示板を読んでるふり”を続けた。視線は紙の上に落ちてるのに、耳だけが相澤の方へ伸びていく。笑い声。相澤の「いいよ」の軽さ。女子の「一分だけ」の距離の近さ。全部が、いつもの廊下の音に紛れてるはずなのに、俺の中では妙に鮮明だった。

(見なきゃいい)

そう思ってるのに、目が勝手に動く。相澤が女子に向ける笑いは、俺に向けるのと同じ。分かってる。分かってるのに、同じだからこそざわつく。俺だけが特別じゃない、って安心するはずなのに、逆に胸が落ち着かない。

女子が少し身を乗り出して、相澤が頷く。距離が近い。廊下が狭いからだ。そう言い聞かせても、喉の奥がきゅっとなる。俺は資料袋の角を握り直して、紙が少し鳴るのを押し殺した。

(俺、何やってんだ)

嫌だ。こういう自分が一番嫌だ。嫉妬みたいな、みっともない感情。相澤は誰にでも優しい。だからこそ助かってきたのに、その優しさが他人に向くと、俺は勝手に不安になる。置いていかれる気がする。そんなの、俺の勝手なのに。

女子が「最近ずっと一緒じゃん」と言った瞬間、心臓が一拍跳ねた。俺の方を見られた気がして、反射で目線を紙に戻す。文字が滲む。読めない。読めないのに、相澤が「結城が一番頑張ってる」と言ったのだけは、ちゃんと聞こえた。

胸の奥が、熱くなる。嬉しいのに、嬉しさより先に怖さが来る。そんなふうに言われたら、相澤が俺を“守る側”に固定してしまう気がして。固定されると、逃げられない。逃げられないのに、逃げたくない。矛盾が胸の中で絡まって、ざわざわが増える。

女子が去って、相澤がこっちへ戻ってくる足音が近づく。俺はそこでやっと、息を吐いた。吐いた息が白くて、廊下の冷たさが戻ってくる。

相澤が隣に立つ。近いのに、さっきより怖い。

「結城」

呼ばれて、俺は返事をする代わりに、資料袋の角をもう一度だけ握った。
胸のざわつきが、まだ消えないまま。