迷子の放送室で、君にだけ見つかりたい

印刷室前の掲示には「締切厳守」の赤字がやたら目立っていた。紙の匂いと、インクの甘い匂いが混ざって、胃の奥がきゅっとなる。ここに来るだけで、時間の残りが数字みたいに見える。

「ここ、戦場だな」

相澤が軽く言って、掲示を指で叩く。俺は笑えない。掲示板から目を離さないまま、持ってきた提出フォームの束を確認した。パンフのフォーマット、文字数、提出先のメールアドレス。間違えたら全部やり直しになるやつ。

「相澤、運動部は頼む。俺は委員会と文化部回る。――で、回収できたら今日中に一覧にまとめて、先生に見せる」

「了解。今日中ね。たぶんいける」

「……たぶん?」

俺の声が思ったより速く出て、相澤が一瞬だけ瞬きをした。

「いや、いけるって意味。言い方のクセ」

「クセで締切は伸びない。『たぶん』って言葉、今はいらない」

自分でも驚くくらい、言葉が硬い。相澤は肩をすくめて笑いかけたけど、俺の顔を見て、その笑いを途中で引っ込めた。

「結城、怒ってる?」

「怒ってない。……焦ってる」

言い直しても、似たようなものだ。焦りは、俺の中で刃みたいに尖っていく。相澤の軽さが悪いわけじゃない。むしろ助かるところもある。けど、ここだけは、軽さが怖い。俺が一番怖いのは“抜け”で、抜けた瞬間に全部が崩れることだ。

「今日、先生のチェック入るんだろ。なら俺、回収してすぐ結城に投げる。結城はまとめて、先生と詰める。これでいい?」

相澤がちゃんと段取りを言う。俺は頷きかけて、でもまだ引っかかっている。

「だから、言い方。『たぶん』はやめて」

「はいはい。――やめる」

相澤は軽く手を上げた。軽い。軽いのに、真面目に受け止めた気配がある。そこがまた、腹立たしいくらい器用だ。

「……ごめん。言い方きつかった」

俺が小さく言うと、相澤は「いいよ」と短く返した。短い返事のほうが、逆に怖い。印刷室の扉が開いて、中から紙束を抱えた先輩が出てくる。すれ違いざま、紙の角が俺の腕に当たって、現実が痛みで戻った。

「とにかく、締切は締切だ。頼む」

そう言った俺の声だけが、蛍光灯の下で硬く尖った。