迷子の放送室で、君にだけ見つかりたい

放課後の廊下は、部活へ向かう声と荷物の擦れる音でざわついていた。印刷室から出たばかりの紙の匂いが、まだ指先に残っている。俺は資料袋を抱えて歩きながら、相澤の背中を半歩後ろで追った。追ってる、って自覚した瞬間に胸がむずむずして、視線を前に固定する。

「相澤くん!」

女子の声が、廊下の真ん中で相澤を止めた。クラスの——たしか美術部の子。名前まで出てこないのが悔しい。相澤が振り返って「ん?」と笑う。あの“誰にでも同じ軽さ”の笑い。

「ちょっと、今いい? 一分だけ」

「いいよ。結城、先行ってて——」

相澤が俺の方に言いかけて、途中で止まった。俺の顔を見たからだ。俺の胸が勝手に固くなるのを、見抜かれた気がした。

「……いや、ここで待つ」

言った声が硬くて、自分でも嫌になる。相澤は「了解」とだけ言って、女子の方に向き直った。俺は壁際に寄って、掲示板のプリントを読むふりをした。文字が頭に入らない。

「文化祭のさ、あの誘導……相澤くんが最初やるって聞いた」

女子が少し声を落とす。相澤は「うん」と頷く。距離が近い。近いのは廊下のせいだ。狭いからだ。そう言い聞かせても、胸の奥がちくっとする。

「私、受付はほんと苦手で……でも、交換欄のやつ、ちゃんと守りたい。どうしたらいい?」

相澤が一瞬だけ考える顔をして、それからいつものテンポで言った。

「できること一個出せばOK。受付無理なら、設営とか撤収とか。結城の導線、見た? あれ守れば大丈夫」

結城。俺の名前が出た途端、女子の視線が一瞬だけこっちに流れる。俺は掲示板の文字を追うふりを続けた。耳だけが熱い。

「……あとさ」

女子が少しだけ躊躇って、でも言った。

「相澤くん、最近ずっと結城くんと一緒じゃん。…忙しいのに、すごい」

すごい、って言葉が相澤に乗る。胸の奥で、また小さい嫉妬が芽を出す。芽のうちに摘む、ってさっき言われたのに、芽は勝手に出てくる。

相澤が軽く笑って、でも声は落とした。

「一緒が効率いいだけ。で、結城が一番頑張ってる。俺は前で喋ってるだけ」

女子が「そっか」と笑って、少しだけ残念そうに頷いた。相澤は「じゃ、ありがと」と手を振って、女子は「うん、ありがと!」と去っていく。

相澤が俺の方へ戻ってきた。俺は掲示板から視線を外せずに、「……終わった?」とだけ言う。

「終わった」

相澤が俺の横に立って、覗き込まずに言った。

「結城、今の、親指どっち?」

俺は答えない代わりに、資料袋の角をきゅっと握った。心臓がうるさい。相澤がそれを見て、声をさらに落とす。

「大丈夫。置いてかない。…帰り道、三分だけ」

三分。その言葉が、さっきより早く効いた。俺はようやく掲示板から目を離して、小さく頷いた。