迷子の放送室で、君にだけ見つかりたい

相澤の「それ。選択肢にする」で空気が一度ほどけたのに、まだ誰かの不満がくすぶっていた。
「でもさ、結局やる人いつも同じじゃん」
その一言で、また教室がざわつく。視線が俺に寄るのが分かって、喉の奥が固まる。俺が「じゃあ俺が…」と言えば早い。早いけど、最悪の早さだ。

相澤がパンの袋を机に置いて、短く言った。

「俺がやる」

教室が一瞬、静かになった。言い切ったのは強いのに、相澤の声は荒くない。威圧じゃなく、場の方向を決める声だ。

「……って言っても、全部じゃない。俺がやるのは“初動”と“回す役”。受付の最初の30分、誘導の交代確認、交換欄の更新。ここを俺が持つ。だから、誰か一人に負担が偏るのは無し」

「相澤、そんなにできんの?」
「できる。やる。文句は後で聞く。今は決める」

相澤が黒板の前に立って、チョークを取る。勝手に仕切るのに、妙に筋が通っていて、誰も止められない。相澤はシフト表を見ずに、クラス全体を見て言った。

「できない役は“できない”でOK。代わりに“できること”を一個出す。受付無理なら、暗幕設営。誘導無理なら、撤収。声出すの無理なら、貼り出し。選ぶだけ。逃げ道じゃなくて、役の分担」

誰かが「じゃあ私は撤収なら」と言い、別の誰かが「設営なら…」と続く。尖っていた言葉が、少しずつ具体に変わっていく。

相澤は最後に、俺のほうを見た。からかう目じゃない。倉庫で「味方」って言った時の目。

「結城は“設計”。以上。――結城が全部やる流れにしない。俺が止める」

俺は反射で反論したくなったのに、喉が動かない。助けられるのが怖いはずなのに、今の「俺がやる」は、俺を持ち上げるためじゃなく、俺を守るためのやつだったから。

相澤が黒板に「交換は前日まで」「初動:相澤」と書き足す。
その文字が決まった瞬間、教室の空気が“決定”に切り替わった。
俺は机の下で拳をほどいて、小さく息を吐いた。