迷子の放送室で、君にだけ見つかりたい

昼休みの教室は、さっきまで笑い声が多かったのに、ある一言で空気が切り替わった。

「え、なんで私ここ? 受付って無理なんだけど」
「じゃあ誰がやるの? 未定のままじゃ回らないじゃん」

俺の机の上に広げたシフト表を、数人が囲んでいる。紙の端を押さえる指が増えるほど、俺の心臓は落ち着かなくなる。決めるために作った表なのに、表が原因で揉める。最悪のパターンだ。

「そもそも“迷子の放送室”とか面倒じゃない?」
「面倒だからって逃げるのも違くない?」
「逃げるとか言わないでよ」

言葉が鋭くなる。笑いが消える。誰かが小さく舌打ちをして、別の誰かが「じゃあ私もやらない」と腕を組む。俺の頭の中で、また警報が鳴る。

(ここで俺が全部引き受ければ、収まる)

いつもの癖が立ち上がる。受付も誘導も、空いたところを俺が埋める。そうすれば議論は終わる。終わるけど――終わった瞬間に、俺が削れる。削れて、またどこかで崩れる。

俺は口を開きかけて、喉が詰まった。出てきそうだった言葉は「俺がやる」。それを飲み込むのに、肺が痛い。

「ちょい待ち」

相澤の声が、輪の外から入ってきた。いつの間にか、教室の入口側に立っている。手には購買のパン。のんきなはずなのに、目は真面目だ。

「揉めてる理由、二つだろ。『役割が怖い』と『不公平に見える』」

相澤はシフト表を奪わない。俺の横に来て、紙の余白を指で叩いた。

「まず受付。怖いなら“受付だけ”じゃなくて、最初の30分は俺と組む。いきなり一人にしない」

「え、相澤やるの?」
「やる。やるけど、全部じゃない」

相澤がさらっと言い切ると、ざわつきが少し静まる。俺の喉の奥の圧も、わずかに下がる。

「次。不公平なやつ。シフト、固定じゃなくて交換OKにする。代わりに、交換は前日までにここに書く」

相澤がペンを取り、交換欄を作る。ルールができると、攻撃が少し減る。人は“逃げ道”が見えると、尖りが鈍る。

「で、最後」

相澤が一度だけ俺を見る。柱の影で言われた“置いていくな”と同じ目。

「結城が全部埋めない。空欄は空欄のまま見せる。誰か一人が背負うと、後で絶対爆発するから」

俺は息を吸った。胸が痛い。でも、痛いまま頷く。

「……空欄、残す。代わりに、今日中に“誰が何ならできるか”だけ聞く」

「それ。選択肢にする」

相澤が頷くと、誰かが小さく「それなら…」と言い始めた。
揉めていた輪が、少しずつ“話し合い”に戻っていく。

俺はシフト表の端を押さえ直した。逃げるためじゃなく、崩れない形にするために。相澤の横で、ようやく声が出た。

「……協力して。頼む」