迷子の放送室で、君にだけ見つかりたい

『明日も。おやすみ、結城』

画面の文字が、やけに静かに刺さった。おやすみは普通の挨拶なのに、相澤が言うと「ここで終わりじゃない」って意味が混ざる。俺はスマホを伏せようとして、止まった。返さないと、何かが片手落ちになる気がした。でも返すと、もっと踏み込む気がして怖い。

指先が勝手に動く。

『おやすみ』

送って、すぐ既読が付く。いつも通りの速さ。いつも通りのはずなのに、今日はその“いつも通り”が特別に見える。胸がむずむずして、布団の中で膝を抱えた。

返事は来ない。――来ない、と思った瞬間。

『結城』

一文字だけで心臓が跳ねる。

『22:30、待ってる』

待ってる。

たった三文字が、胸の奥のどこかを直撃した。呼吸が止まりかけて、俺は慌てて息を吸う。待ってるって、そんな言葉、軽く投げるものじゃない。約束みたいで、逃げ道がなくて、期待みたいで、もし裏切ったら痛い。

(待たせたくない)

そう思った自分に、また腹が立つ。誰かにそう思うのは、負けだ。依存だ。――そんな古い警報が鳴るのに、鳴りきる前に相澤の声が上書きしてくる。

“理由いらない”“無理って送るだけでOK”

待ってる、は縛りじゃない。確認だ。ここに戻ってこい、っていう合図だ。分かっているのに、胸が熱い。

俺は返事を打って、消して、また打った。
『了解』だと冷たすぎる。
『ありがとう』だと重い。
『待つな』は嘘。

結局、いちばん短いのにした。

『……行く』

送信。既読。すぐ。

『うん。来い。』

来い、なんて強い言葉。強いのに、怖くない。むしろ、安心が先に来るのが悔しい。俺はスマホを胸に抱えたまま目を閉じた。まぶたの裏に、体育館倉庫の薄い光と、相澤の真面目な目が浮かぶ。

22:30まで、まだ少しある。
その「少し」が、妙に長く感じた。