覗き込む相澤の影が、俺の紙の上に落ちた。掲示板の前は人の通り道で、誰かが横をすり抜けるたびに風が当たるのに、相澤が半歩寄っただけで空気が変わった気がした。距離が近い。肩が触れそうで触れない、そのぎりぎり。
「運動部って、あのサッカー部とか?」
「そう。提出遅いの、だいたい運動部」
俺が淡々と言うと、相澤は「偏見」と笑いながらも、締切表の該当行を指でなぞった。指先が紙の上を滑る音が、妙に大きく聞こえる。俺は無意識に、ペンを握り直していた。
「でもさ、結城ってこういうの得意だよな」
「得意じゃない。必要だからやってるだけ」
「それ、得意って言うんじゃないの?」
相澤はそう言って、少し首を傾ける。覗き込む角度が変わって、息が俺の手元にかかった。俺は思わず肩に力が入る。
「……近い」
「ん? あ、見えないからさ」
悪びれない。悪びれないくせに、ちゃんと見えないと困る顔をしているのがずるい。俺は視線を締切表に落としたまま、項目を早口で確認する。
「提出物は二種類。パンフ原稿と、掲示用の告知文。パンフは文字数とフォーマット指定がある。掲示は大きめの見出し――」
「結城、ほんと細かいな」
「細かくしないと、事故る」
「事故る、って言い方おもしろ。文化祭で事故ったら怖いな」
相澤は笑いながら、俺のメモ欄を指差した。そこには、俺が自分用に書いた小さな注意書きが並んでいる。誤字、固有名詞、教室番号、提出先。抜け漏れが怖くて、つい書いてしまう癖。
「字、綺麗。几帳面」
「別に……普通だろ」
褒められているのに、落ち着かない。嬉しいより先に、照れが来る。照れを見られるのが嫌で、俺はわざと紙をずらした。ところがその拍子に、メモが風でめくれかける。
「あ」
相澤の手が伸びて、紙の端を押さえた。指が紙を挟む。俺の指先が同じ場所にあって、一瞬だけ触れそうになって止まる。相澤は触れないように、ほんの少しだけ位置をずらした。そんな気遣いがあるのかよ、と変なところで驚く。
「ほら、飛ぶぞ」
相澤は俺のメモを丁寧に揃え、掲示板の前で俺の手元にすっと戻した。まるで最初からそこにあったみたいに。俺が何か言い返す前に、その動作が終わってしまう。
「……ありがと」
小さく言うと、相澤は「どーいたしまして」と軽く返した。その軽さのまま、もう一度俺の締切表を覗き込む。
近い。なのに、触れてこない。俺はそれが余計に気になって、ペン先の行き場を失いかけた。
「運動部って、あのサッカー部とか?」
「そう。提出遅いの、だいたい運動部」
俺が淡々と言うと、相澤は「偏見」と笑いながらも、締切表の該当行を指でなぞった。指先が紙の上を滑る音が、妙に大きく聞こえる。俺は無意識に、ペンを握り直していた。
「でもさ、結城ってこういうの得意だよな」
「得意じゃない。必要だからやってるだけ」
「それ、得意って言うんじゃないの?」
相澤はそう言って、少し首を傾ける。覗き込む角度が変わって、息が俺の手元にかかった。俺は思わず肩に力が入る。
「……近い」
「ん? あ、見えないからさ」
悪びれない。悪びれないくせに、ちゃんと見えないと困る顔をしているのがずるい。俺は視線を締切表に落としたまま、項目を早口で確認する。
「提出物は二種類。パンフ原稿と、掲示用の告知文。パンフは文字数とフォーマット指定がある。掲示は大きめの見出し――」
「結城、ほんと細かいな」
「細かくしないと、事故る」
「事故る、って言い方おもしろ。文化祭で事故ったら怖いな」
相澤は笑いながら、俺のメモ欄を指差した。そこには、俺が自分用に書いた小さな注意書きが並んでいる。誤字、固有名詞、教室番号、提出先。抜け漏れが怖くて、つい書いてしまう癖。
「字、綺麗。几帳面」
「別に……普通だろ」
褒められているのに、落ち着かない。嬉しいより先に、照れが来る。照れを見られるのが嫌で、俺はわざと紙をずらした。ところがその拍子に、メモが風でめくれかける。
「あ」
相澤の手が伸びて、紙の端を押さえた。指が紙を挟む。俺の指先が同じ場所にあって、一瞬だけ触れそうになって止まる。相澤は触れないように、ほんの少しだけ位置をずらした。そんな気遣いがあるのかよ、と変なところで驚く。
「ほら、飛ぶぞ」
相澤は俺のメモを丁寧に揃え、掲示板の前で俺の手元にすっと戻した。まるで最初からそこにあったみたいに。俺が何か言い返す前に、その動作が終わってしまう。
「……ありがと」
小さく言うと、相澤は「どーいたしまして」と軽く返した。その軽さのまま、もう一度俺の締切表を覗き込む。
近い。なのに、触れてこない。俺はそれが余計に気になって、ペン先の行き場を失いかけた。
