昇降口の朝は、冷たいのに人の熱でじわっとする。靴箱の前で立ち止まって掲示を確認していると、後ろから女子の声が跳ねた。
「相澤くん昨日さ、本部の修正、秒で通したんでしょ? 助かった〜!」
「放送部の先輩も“話わかる”って言ってたよ」
相澤が手袋を外しながら「別に」と笑う。その軽さが、なぜか胸の奥に引っかかった。別に、って言いながら、ちゃんとやってる。ちゃんとやって、ちゃんと評価されて、こうやってみんなの空気を変えてる。
(……それ、俺の仕事でもあるだろ)
思った瞬間、自分で自分にびっくりする。俺の仕事? 俺の、って何だ。昇降口のタイルが急に冷たく見えて、喉が詰まる。俺は掲示物の端を押さえるふりをして、視線を逸らした。
担任まで通りかかって、「相澤、昨日の対応よかったぞ」と一言残していく。相澤は「はい」と短く返して、すぐ俺のほうに視線を投げた。見られた。嫌なタイミングで。
「結城」
名前を呼ばれて、俺は反射で「なに」と硬く返す。相澤が俺の手元のプリントを覗き込まずに、さらっと言った。
「今の顔、嫉妬」
「は?」
声が裏返りそうになって、俺は慌てて咳払いした。嫉妬って言葉が直球すぎて、心臓が変な跳ね方をする。
「してない」
「してる。『俺もやったのに』って顔」
図星すぎて、返す言葉が消える。俺は靴紐を結び直すふりをして時間を稼いだ。結び目がきれいにできない。指先が落ち着かない。
「……別に、褒められるのはいいだろ」
やっと出た言い訳は、自分でも苦しかった。相澤は笑わない。代わりに、ほんの少しだけ声を落とす。
「褒められたいなら、結城も褒められろ。昨日の文言、結城が作った。導線も結城。俺は“前で喋った”だけ」
“だけ”じゃない。俺はそれを知ってる。知ってるのに、胸の奥のざわつきは止まらない。
相澤が、昇降口の柱の影に立つ俺の横に並んで、短く言った。
「……俺、結城の方がすごいって思ってるよ」
その一言で、さっきの軽い嫉妬が、別の熱に変わっていくのが分かった。俺は顔を上げられず、「うるさい」とだけ返した。
相澤は「はいはい」と笑って、でもその笑いは、誰に向けるでもない“味方”のやつだった。
「相澤くん昨日さ、本部の修正、秒で通したんでしょ? 助かった〜!」
「放送部の先輩も“話わかる”って言ってたよ」
相澤が手袋を外しながら「別に」と笑う。その軽さが、なぜか胸の奥に引っかかった。別に、って言いながら、ちゃんとやってる。ちゃんとやって、ちゃんと評価されて、こうやってみんなの空気を変えてる。
(……それ、俺の仕事でもあるだろ)
思った瞬間、自分で自分にびっくりする。俺の仕事? 俺の、って何だ。昇降口のタイルが急に冷たく見えて、喉が詰まる。俺は掲示物の端を押さえるふりをして、視線を逸らした。
担任まで通りかかって、「相澤、昨日の対応よかったぞ」と一言残していく。相澤は「はい」と短く返して、すぐ俺のほうに視線を投げた。見られた。嫌なタイミングで。
「結城」
名前を呼ばれて、俺は反射で「なに」と硬く返す。相澤が俺の手元のプリントを覗き込まずに、さらっと言った。
「今の顔、嫉妬」
「は?」
声が裏返りそうになって、俺は慌てて咳払いした。嫉妬って言葉が直球すぎて、心臓が変な跳ね方をする。
「してない」
「してる。『俺もやったのに』って顔」
図星すぎて、返す言葉が消える。俺は靴紐を結び直すふりをして時間を稼いだ。結び目がきれいにできない。指先が落ち着かない。
「……別に、褒められるのはいいだろ」
やっと出た言い訳は、自分でも苦しかった。相澤は笑わない。代わりに、ほんの少しだけ声を落とす。
「褒められたいなら、結城も褒められろ。昨日の文言、結城が作った。導線も結城。俺は“前で喋った”だけ」
“だけ”じゃない。俺はそれを知ってる。知ってるのに、胸の奥のざわつきは止まらない。
相澤が、昇降口の柱の影に立つ俺の横に並んで、短く言った。
「……俺、結城の方がすごいって思ってるよ」
その一言で、さっきの軽い嫉妬が、別の熱に変わっていくのが分かった。俺は顔を上げられず、「うるさい」とだけ返した。
相澤は「はいはい」と笑って、でもその笑いは、誰に向けるでもない“味方”のやつだった。
