迷子の放送室で、君にだけ見つかりたい

暗幕を畳み終えると、相澤が床にしゃがみこんで鞄からルーズリーフを引っ張り出した。勢いよく開いたせいで紙がふわっと舞って、倉庫の埃が光に浮かぶ。

「で、導線。結城、描いて」

「ここで?」

「ここで。今、頭の中にあるうちに。あと俺、意外とガチでやりたい」

“意外と”が余計だ。俺は苦笑いしながらもペンを受け取った。体育館倉庫の狭さを、紙の上に縮めていく。入口、受付、暗幕で作る通路、折り返し、出口。人が詰まったときの逃げ道も一本。矢印を引いて、立ち止まりポイントに×を付ける。

「ここ、行き止まりに見える」

相澤が覗き込む。近い。けど、覗き込みの角度が“邪魔しない”やつだ。

「行き止まりっぽく見せる。怖さを作る。…でも実際はこの隙間から抜けられる。安全」

「安全大事。結城、ほんと安全大事」

「当たり前だろ。怪我したら終わる」

言いながら、俺は“スタッフ立ち位置”を丸で囲んだ。受付二名、誘導一名。音声係の席も決める。相澤が真顔でメモを足す。

「待機列、ここから外に出るとダサいな」

「なら、待機は廊下側じゃなく体育館横。暗幕で目隠し」

「ガチだ。文化祭なのにイベント会社みたい」

「お前がガチでやりたいって言ったんだろ」

返した瞬間、相澤が小さく笑って、俺のペン先の動きを見ている。褒められてるのが分かって、また顔が熱くなる。

「ここさ」

相澤が指で紙の端を押さえた。風もないのに、俺の手が震えて紙がずれそうだったのを、止めるみたいに。

「結城、今の線、すげー綺麗。迷いない」

「迷ってるよ。…でも迷うと詰まるから、引くだけ」

「引けるのが強いんだよ」

その言い方が、さっきの“味方”と同じ温度で、俺は一瞬だけ息を止めた。倉庫の暗さの中で、紙の白だけが眩しい。

導線図の最後に、俺は小さく書いた。
《困ったら近くのスタッフへ》――録音の文言と同じ。

相澤がそれを見て、頷いた。

「これ、貼ろう。裏方用。結城の設計、ちゃんと“守る”やつになってる」

守る。言われた瞬間、胸の奥が少しだけ落ち着いた。助けられるのが怖いのに、こうやって一緒に“守る形”を作っているのは、怖さより先に安心が来る。悔しいくらいに。