迷子の放送室で、君にだけ見つかりたい

倉庫の暗さに目が慣れる前に、俺は一歩だけ奥へ進んでしまった。通路の幅が思ったより狭くて、肩が箱に擦れそうになる。逃げるつもりじゃないのに、体が勝手に“奥へ”寄る。壁際に寄ったほうが落ち着く、って癖だ。

その瞬間、上の段に積まれた段ボールが、わずかにずれた。ギシ、と紙が擦れる音。俺は反射で身を竦めた。落ちる――と思った瞬間、相澤の手が伸びた。

「動くな」

小声。命令みたいなのに、怖くない。相澤は俺の前に出るでもなく、横から箱の角に手を当てて、静かに支えた。段ボールが揺れて、俺の呼吸が止まる。相澤は力任せに押さえつけない。ゆっくり、ずれた分だけ戻す。擦れる音が小さくなって、箱が落ち着く。

「……ごめん」

口から出たのは、また謝罪だった。自分でも嫌になる。相澤は箱を押さえたまま、こちらを見ずに言った。

「謝るな。ここ、危ないの分かってたの俺だし」

相澤がそう言って、段ボールの下の椅子を少しだけ動かす。支えになる位置に滑らせる。手際がいい。倉庫の中の暗さのせいか、相澤の横顔がいつもより真剣に見えた。俺は目を逸らせなくなる。

「結城」

相澤が、箱を押さえたまま名前を呼ぶ。俺は反射で「なに」と返そうとして、声が出ない。相澤は声を落としたまま、続ける。

「今の、結城が悪いって話じゃない。…怖かったろ」

怖かった。そう言われた瞬間、さっきの“落ちる”より、胸の奥が揺れた。怖いって言葉を、相澤が否定しないで置いてくれる。俺は小さく頷いた。頷いたことが、暗さに紛れてほしかった。

相澤は段ボールから手を離して、椅子の位置を確認するように軽く叩いた。

「よし。これで落ちない」

それから、俺のほうを見た。目が合う。倉庫の薄い光の中で、相澤の目だけがはっきりしている。

「で。さっきの“怖い”。今の怖いじゃないやつ」

言い方が優しい。俺を急かさない。けど逃がさない。俺は唇を噛んで、箱の角に指先を当てた。冷たい紙の感触が、今の自分を繋ぎ止める。

「……助けられるのが、怖い」

やっと言えた。声が小さすぎて、段ボールの擦れる音に負けそうだった。相澤は「うん」とだけ頷く。否定しない。茶化さない。俺の“怖い”が、初めて宙に浮かばずにそこに留まった。