迷子の放送室で、君にだけ見つかりたい

駅までの道は、いつもより少しだけ暗かった。冬の夕方は早い。街灯が点き始めて、空の色が急に薄くなる。さっきまでの「18:00」が頭の奥で点滅していたのに、送信ボタンを押してからは、逆に何も考えられなくなっていた。体の中の力だけが抜けて、足が自分のものじゃないみたいに重い。

相澤は隣を歩いている。いつもより喋らない。喋らないのに、そこにいるだけで、俺の肩の重さが少しだけ違う。俺はそれが怖くて、言葉を探した。

「相澤」

「ん?」

「……今日、ありがとう」

出た声は小さくて、街の音に紛れそうだった。相澤は「うん」と短く返す。軽く流す感じじゃない。受け取った感じの「うん」。

「でも」

俺はそこで一回、息を吸った。ここからが本題だ。俺はいつも、助けられると怖くなる。借りができるのが怖い。関係が深くなるのが怖い。深くなると、失った時が痛いから。

「そこまで、しなくていい」

言ってしまった。言った瞬間、胸が痛くなる。違う。本当は、してほしい。けど、してほしいと言うと、俺が弱いみたいで、相澤に頼り切りみたいで、怖い。

相澤は立ち止まらずに、歩幅だけを少し落とした。俺の横に合わせるみたいに。声は低い。

「結城、それ断る時の顔だ」

「断ってる」

「断れてない」

相澤の言い方が、優しいのに逃げ道がない。俺は視線を前に固定して、歩道の白線だけを見た。

「俺がやらないといけないこと、俺がやるべきだろ」

正論のつもりで言った。自立。責任。そういう言葉で自分を守る。相澤は少しだけ笑った。馬鹿にする笑いじゃない。呆れに近い。

「結城、それ“全部”の話になってる」

「……全部じゃない」

「全部だよ。結城が一人で背負うと、全部になる」

言い返そうとして、言葉が出ない。出ないのは、当たっているからだ。俺は唇を噛んで、足を速めたくなる。逃げたい。早く駅に着いて、別れて、今日を終わらせたい。

でも相澤は、追いかけるでもなく、淡々と言った。

「結城、断るなら理由言え。納得できたら引く」

納得できたら引く。そんな取引みたいな言い方が、逆に誠実で困る。俺は喉が鳴って、結局、正直な理由が一つだけ浮かんだ。

「……怖いんだよ」

声が震えた。何が怖いかまでは、まだ言えなかった。言ったら、全部変わる気がしたから。