迷子の放送室で、君にだけ見つかりたい

掲示板の前でスマホが震えた瞬間、嫌な予感が当たった。放課後の廊下はまだ人が残っていて、部活に向かう足音と、教室から漏れる笑い声が混ざっている。なのに俺の周りだけ、急に音が遠くなる。通知の件名に「文化祭本部:至急確認」。その四文字が、視界を狭くした。

(やめてくれ、今じゃない)

願っても無駄だ。俺は掲示板の端に寄り、スマホの画面を開いた。

『提出済みの掲示物文言について修正依頼。校内ルールに抵触の可能性あり。該当箇所:クラス出し物「迷子の放送室」告知文内 “迷子の方は放送室へ” の誘導表現。別表現へ差し替え。提出期限:本日18:00』

一気に血の気が引く。さっき印刷室で二重線を引いて笑った、あの一文。直したはずなのに、なぜ“提出済み”になっている。別ファイル? 旧版? 送信先のミス? 頭の中で可能性が一斉に立ち上がって、順番が消える。

「……最悪」

言葉が漏れた。掲示板の紙が風で揺れて、端が少し浮く。俺は反射で押さえた。押さえたところで何も止まらないのに、手が勝手に動く。締切。18:00。あと二時間もない。

「結城?」

相澤の声が背後から来た。振り返る余裕がなくて、俺はスマホの画面を握りしめたまま、口だけで答える。

「本部から修正依頼。……今日中」

相澤が俺の横に来て、画面を覗き込む。覗き込みが近い。けど、今日はその近さが怖くない。怖いのは、画面の「提出済み」の文字だ。

「直したのに、なんで旧文が行ってんだよ」

相澤が低く言う。俺は喉が鳴った。言い訳じゃなく、事実を言わなきゃいけないのに、言葉が出てこない。出てくるのはいつもの逃げだ。

「……俺が、どこかで」

言いかけた瞬間、相澤が俺のスマホを取らずに、指だけで掲示板をトントンと叩いた。小さな合図。準備室の時と同じ、順番を戻す合図。

「今は原因じゃない。修正。18:00に間に合わせる」

相澤の声が、俺の頭の中の“ぐちゃぐちゃ”を一段だけ整える。俺は息を吸って、メモアプリを開いた。差し替え文言案。提出先。先生チェック。やることがまた増える。増えるのに、不思議と手は動く。

「……修正文、作る。先生に確認取って、送る」

「俺、先生捕まえる。結城、文言だけ作れ」

相澤がそう言って、すぐに歩き出す。背中が遠ざかる。俺は掲示板の前で一人、スマホの画面を見つめたまま、時間の数字だけが迫ってくるのを感じた。画面の「至急」が、俺の視界を狭くした。