迷子の放送室で、君にだけ見つかりたい

机の上に影が落ちて、相澤の声が近くなった。覗き込む距離が、またあの“ぎりぎり”だ。近いのに、触れない。触れないのに、見透かす。

「結城さ」

相澤がシフト表の空欄を指でなぞった。未定、未定、未定。そこだけ赤ペンの丸がない。俺の胃がまた縮む。

「今、頭の中で『じゃあ俺が入ればいい』って考えたろ」

「考えてない」

反射で否定した。声が硬い。硬くなっている自覚があるのに、止められない。相澤は眉を上げるでもなく、ただ淡々と言う。

「考えた。結城、嘘つくの下手」

「下手じゃない。……違う。必要だからだろ」

「必要って言えば、何でも正当化できると思ってる?」

その言い方が刺さって、俺はペンを握り直した。責められているみたいで腹が立つ。俺がやらなきゃ回らない、って現実があるのに、そこを“正当化”って言われると、俺の全部が否定された気がする。

「じゃあどうしろって言うんだよ」

声が少し大きくなって、教室の空気が揺れた。誰もいない教室のはずなのに、恥ずかしくて耳が熱くなる。相澤は動じない。動じないまま、俺の手元の紙を奪わずに言う。

「結城が入る前に、人を入れる。声かける。交渉する。俺がやる」

「俺だって――」

「結城は“設計”。さっき自分で言っただろ」

言い返せない。自分で言った言葉が、今は鎖みたいに手首に絡む。設計だけでいい、と言われるのが怖い。役に立てなくなる気がして。置いていかれる気がして。

「……俺、役立たずみたいだろ」

口から出た瞬間、自分で自分を殴りたくなった。何言ってるんだ。幼稚だ。相澤は一瞬だけ目を細めて、でも笑わなかった。

「役立たずじゃない。逆。結城は役に立ちすぎる」

「……褒めてるのかそれ」

「褒めてる。あと、心配してる」

心配、という言葉が刺さる。心配されるのは、弱いって言われてるみたいで嫌だ。嫌なのに、相澤が心配するのは、なぜか腹が立ちきらない。俺は視線を逸らして、シフト表の端を指で潰した。

「勝手に決めるなよ。俺のこと」

相澤は少し息を吐いて、声を落とした。

「勝手に決めてんのは結城だろ。自分が全部やるって」

その正しさが、痛い。俺は言い返せず、紙を隠すみたいに引き寄せた。相澤は追ってこない。追ってこないのに、その場にいるだけで逃げられない。

「結城、ここ」

相澤が紙の端を指で押さえた。強引じゃない押さえ方。逃がさない押さえ方。

「俺に任せろ。…じゃなくて、俺にもやらせろ」

その言い方に、俺の反発が少しだけ鈍る。俺は紙を隠したまま、喉を鳴らした。言葉が出ない。出ない代わりに、ペン先で空欄に小さく“未定”と書き足した。埋めない、と決めたはずの穴を、増やしてしまうみたいで悔しかった。