放課後の教室に残ったのは、俺のペンの音だけだった。窓の外はもう薄暗くて、部活の掛け声が遠くから聞こえる。机を寄せる音も、笑い声も、時間と一緒に掃けていった。残された黒板には、さっき決めた出し物の役割がうっすら残っていて、チョークの粉が白く光っている。
俺はノートを開き、文化祭のクラス当番シフトを一から作り始めた。受付二名、誘導一名、設営二名、音声一名。時間帯を区切って、休憩を挟んで、被りを避けて、足りない枠には“未定”と書く。書けば書くほど、未定が増える気がして胃が沈む。未定は、いつか俺が埋める穴になるからだ。
(ここで、埋めない)
そう決めたはずなのに、手は勝手に“未定”の横に候補の名前を書き始める。あの人は真面目だから来る、あの人は雑だけど人数に入れれば回る。そんな打算が、いつもの癖みたいに出てくる。線を引くたびに仕事が増えていくのが分かっているのに、手が止まらない。
「結城」
背後から声がして、俺はペン先を止めた。相澤が教室の入口に立っている。帰ったと思っていたのに、戻ってきたらしい。腕には資料袋。いつもの軽い顔なのに、俺の机の上のシフト表を見る目だけは真面目だった。
「まだやってんの?」
「……やらないと終わらない」
「終わらせ方が、結城の一人勝ちになってる」
相澤はそう言って、俺の隣の椅子を引く。勝手に座らない。座る前に「いい?」と目で聞いてくる。その癖が、少し腹立たしくて、でも助かる。
「未定、多いな」
「無理に埋めると、揉める」
「なら、揉めない埋め方にする」
相澤が机の端に手をついて、紙の上を覗き込む。俺は反射で紙を引き寄せかけて、やめた。覗き込まれるのが嫌なんじゃない。覗き込まれて、自分の“抱え癖”が見えるのが嫌なんだ。
「結城、休憩枠、ちゃんと作ってる?」
「作ってる。……けど、足りない」
「足りないなら、足す。人を。結城が削れる方向に足すなよ」
相澤の言い方は命令みたいなのに、胸の奥が少しだけ楽になる。俺はペンを置いて、シフト表の空欄を見つめた。
「……じゃあ、誰に声かける」
相澤は迷いなく言った。
「俺がやる。結城は“設計”だけでいい。ほら、今日決めたじゃん」
“設計だけでいい”。その言葉が、俺の手からペンを取り上げるみたいに効いた。怖いのに、少し救われてしまう。
相澤が俺の紙の余白に、さらっと人数の見込みを書き足す。俺はそれを見ながら、未定の横に小さく印を付けた。埋めるのは俺じゃない、と自分に言い聞かせるための印だった。
俺はノートを開き、文化祭のクラス当番シフトを一から作り始めた。受付二名、誘導一名、設営二名、音声一名。時間帯を区切って、休憩を挟んで、被りを避けて、足りない枠には“未定”と書く。書けば書くほど、未定が増える気がして胃が沈む。未定は、いつか俺が埋める穴になるからだ。
(ここで、埋めない)
そう決めたはずなのに、手は勝手に“未定”の横に候補の名前を書き始める。あの人は真面目だから来る、あの人は雑だけど人数に入れれば回る。そんな打算が、いつもの癖みたいに出てくる。線を引くたびに仕事が増えていくのが分かっているのに、手が止まらない。
「結城」
背後から声がして、俺はペン先を止めた。相澤が教室の入口に立っている。帰ったと思っていたのに、戻ってきたらしい。腕には資料袋。いつもの軽い顔なのに、俺の机の上のシフト表を見る目だけは真面目だった。
「まだやってんの?」
「……やらないと終わらない」
「終わらせ方が、結城の一人勝ちになってる」
相澤はそう言って、俺の隣の椅子を引く。勝手に座らない。座る前に「いい?」と目で聞いてくる。その癖が、少し腹立たしくて、でも助かる。
「未定、多いな」
「無理に埋めると、揉める」
「なら、揉めない埋め方にする」
相澤が机の端に手をついて、紙の上を覗き込む。俺は反射で紙を引き寄せかけて、やめた。覗き込まれるのが嫌なんじゃない。覗き込まれて、自分の“抱え癖”が見えるのが嫌なんだ。
「結城、休憩枠、ちゃんと作ってる?」
「作ってる。……けど、足りない」
「足りないなら、足す。人を。結城が削れる方向に足すなよ」
相澤の言い方は命令みたいなのに、胸の奥が少しだけ楽になる。俺はペンを置いて、シフト表の空欄を見つめた。
「……じゃあ、誰に声かける」
相澤は迷いなく言った。
「俺がやる。結城は“設計”だけでいい。ほら、今日決めたじゃん」
“設計だけでいい”。その言葉が、俺の手からペンを取り上げるみたいに効いた。怖いのに、少し救われてしまう。
相澤が俺の紙の余白に、さらっと人数の見込みを書き足す。俺はそれを見ながら、未定の横に小さく印を付けた。埋めるのは俺じゃない、と自分に言い聞かせるための印だった。
