誰も手を挙げない沈黙が、俺の肩にだけ乗っていく。相澤が提案した「迷子の放送室」は、面白い、と誰かが笑った。けれど笑いのあと、教室は急に静かになる。面白いのは分かった。でも誰がやる。誰が段取りを組む。誰が責任を持つ。そこに誰も触れない沈黙。
担任が黒板の文字を見つめたまま「じゃあ、やるなら役割」と言う。役割。俺の中で警報が鳴る。役割を決めると、動かない人が出る。動かない人が出ると、動く人が削れる。削れる役は、いつも俺だ。
「受付、誰がやる?」
「音声作るの誰?」
「暗幕ってどこから借りる?」
質問だけが飛ぶ。答えがない。俺は机の上のメモを握りしめた。ここで手を挙げれば、場は回る。俺が引き受ければ、最低限“決まる”。決まらない時間が一番怖い。怖いから、いつも自分が動く。
でも、動いた瞬間に終わる。俺の中の余裕が。相澤とペアで回している実行委員の仕事が。締切表の“順番”が。
(やめろ。手を挙げるな)
頭では止めているのに、肩が勝手に前に出る。息を吸って、声を出そうとした。
「……俺が――」
言いかけた瞬間、相澤が俺の机を軽く指で叩いた。トントン。小さな合図。俺だけが分かるやつ。相澤は笑っていない。視線だけで「やるな」と言っている。
その気配に引き戻されて、俺は言葉の続きを飲み込んだ。飲み込んだのに、教室の視線はもう俺のほうを向いている。誰かが期待の顔をする。担任が「結城、どうだ?」と聞きかける。逃げられない。
俺は喉を鳴らして、ぎりぎりの妥協を選んだ。
「……導線と締切の整理なら、できる。でも、全部は無理」
言った途端、胸の奥がひゅっと縮む。“無理”と言ったのは久しぶりだった。嫌われるかもしれない。責められるかもしれない。そんな怖さが一斉に湧く。
でも相澤が、すぐに声を出した。
「それでいい。結城は設計。俺は人集める。受付も回す」
担任が「助かる」と言い、黒板に役割を書き足す。誰かが「じゃあ音声は放送部に頼む?」と口を開き、沈黙が少しずつ崩れていく。
俺は机の下で拳を握った。頷きかけた瞬間、自分の首を自分で絞める気がして息が詰まったけれど、今日はまだ絞め切っていない。相澤のトントンが、そこに残っていた。
担任が黒板の文字を見つめたまま「じゃあ、やるなら役割」と言う。役割。俺の中で警報が鳴る。役割を決めると、動かない人が出る。動かない人が出ると、動く人が削れる。削れる役は、いつも俺だ。
「受付、誰がやる?」
「音声作るの誰?」
「暗幕ってどこから借りる?」
質問だけが飛ぶ。答えがない。俺は机の上のメモを握りしめた。ここで手を挙げれば、場は回る。俺が引き受ければ、最低限“決まる”。決まらない時間が一番怖い。怖いから、いつも自分が動く。
でも、動いた瞬間に終わる。俺の中の余裕が。相澤とペアで回している実行委員の仕事が。締切表の“順番”が。
(やめろ。手を挙げるな)
頭では止めているのに、肩が勝手に前に出る。息を吸って、声を出そうとした。
「……俺が――」
言いかけた瞬間、相澤が俺の机を軽く指で叩いた。トントン。小さな合図。俺だけが分かるやつ。相澤は笑っていない。視線だけで「やるな」と言っている。
その気配に引き戻されて、俺は言葉の続きを飲み込んだ。飲み込んだのに、教室の視線はもう俺のほうを向いている。誰かが期待の顔をする。担任が「結城、どうだ?」と聞きかける。逃げられない。
俺は喉を鳴らして、ぎりぎりの妥協を選んだ。
「……導線と締切の整理なら、できる。でも、全部は無理」
言った途端、胸の奥がひゅっと縮む。“無理”と言ったのは久しぶりだった。嫌われるかもしれない。責められるかもしれない。そんな怖さが一斉に湧く。
でも相澤が、すぐに声を出した。
「それでいい。結城は設計。俺は人集める。受付も回す」
担任が「助かる」と言い、黒板に役割を書き足す。誰かが「じゃあ音声は放送部に頼む?」と口を開き、沈黙が少しずつ崩れていく。
俺は机の下で拳を握った。頷きかけた瞬間、自分の首を自分で絞める気がして息が詰まったけれど、今日はまだ絞め切っていない。相澤のトントンが、そこに残っていた。
