迷子の放送室で、君にだけ見つかりたい

ホームルームの黒板に「文化祭:出し物案」と大きく書かれた。昼の教室は窓を開けても熱が抜けなくて、誰かのシャーペンの音までやけに響く。担任がチョークを叩いて「はい、決めるぞ」と言った瞬間、俺の胃がきゅっと縮んだ。実行委員の仕事だけでも頭がいっぱいなのに、クラス出し物まで絡むと、締切が二重になる。

「定番はお化け屋敷でしょ」
「カフェがいい! 映えるし」
「面倒だから展示でよくない?」

意見は出るのに、決め手がない。声が大きい方に流れそうになるたび、別の誰かが「それ準備大変」と止めて、また宙に浮く。担任は腕を組んで「じゃあ多数決」と言いかけ、でも「多数決で地獄を見るのは毎年」と自分で止めた。

俺は机の上でメモを開いた。会議の癖で、実現可能性を先に計算してしまう。必要物品、導線、当番人数、保健室案件の可能性。考えるほど、選択肢が減る。減るほど、誰かの不満が増える。

そのとき、相澤が後ろの席から椅子をきいと鳴らして立ち上がった。

「じゃ、クラス出し物も“迷子の放送室”でよくね? 実行委員の企画と繋がるし」

ざわっと笑いが起きる。冗談っぽいのに、妙に筋が通っているから余計に腹が立つ。俺は反射で「無理だろ」と言いかけて、口を閉じた。無理の理由を説明し始めたら、また俺が仕切る側に回ってしまう。

担任が「具体的には?」と相澤を見る。相澤は肩をすくめて、さらっと言った。

「暗幕で作って、校内放送っぽい音声入れて、迷子を誘導する。受付は二名。導線は…結城が詳しいでしょ」

その瞬間、教室の視線が一斉に俺に向いた。
「結城、詳しいでしょ」の一言で、逃げ道が一つ消えた。