既読が付いたまま、しばらく画面は静かだった。俺の「了解」が味気なさすぎた気がして、胸の奥がむずむずする。事務連絡のつもりなのに、相澤相手だと“温度”が勝手に混ざる。混ざるのが怖いくせに、混ざってほしいみたいで腹が立つ。
スマホを伏せて、机の上のメモを見る。今日、相澤が空中に書いた順番。1、昼まで回収。2、先生チェック。3、修正。4、印刷。丸で囲んだ“朝当番”。決まっていることは、安心のはずなのに、決まるほど逃げ道が減る。逃げ道が減るほど、相澤が近くなる。近くなるほど、俺は変になる。
もう一度スマホを取って、さっき打ちかけた文を見返す。『起きる。起きれなかったら起こして』――送っていない。俺は一文字ずつ消して、代わりにこう打った。
『起きる。遅れない』
送信。すぐに既読が付く。やっぱり速い。画面の向こうに相澤がいるのが、急に現実になる。
『えらい』
たった二文字。なのに胸が熱くなる。褒めなくていいって言ったのに、こういう褒めはずるい。俺は返事に困って、指先で机を叩いた。返さないと、変に終わる。でも、余計なことを言うともっと変になる。
『…うるさい』
送信してから、しまったと思う。可愛げがない。けど相澤から返ってきたのは、想像より軽い。
『うるさいって言えるならOK。明日7:20な』
時間が具体的すぎて笑いそうになる。7:20。そこまで決めるのか。決められると逃げられない。逃げられないのが怖いはずなのに、胸の奥がふっと落ち着く。
『了解。7:20』
返したあと、俺はスマホを見つめたまま動けなくなった。ほんの数日前まで、相澤は“ただの同級生”で、文化祭実行委員のペアになっただけの相手だった。なのに今は、明日の時間を決めて、朝の集合場所を決めて、俺の呼吸の話までしている。
『結城』
相澤から、もう一通。
『終わっても会うけど。…何か問題?』
胸が一瞬きゅっと縮む。冗談みたいなのに、冗談じゃない感じがする。俺は返事を打って、消して、また打って、結局いちばん短いのにした。
『問題ない』
送った瞬間、既読が付く。そして、返ってきた。
『じゃ、明日も』
たったそれだけで、世界の輪郭が少し変わった気がした。
「明日も」が確定して、俺はそれを怖いと思う前に、少し楽しみだと思ってしまった。
スマホを伏せて、机の上のメモを見る。今日、相澤が空中に書いた順番。1、昼まで回収。2、先生チェック。3、修正。4、印刷。丸で囲んだ“朝当番”。決まっていることは、安心のはずなのに、決まるほど逃げ道が減る。逃げ道が減るほど、相澤が近くなる。近くなるほど、俺は変になる。
もう一度スマホを取って、さっき打ちかけた文を見返す。『起きる。起きれなかったら起こして』――送っていない。俺は一文字ずつ消して、代わりにこう打った。
『起きる。遅れない』
送信。すぐに既読が付く。やっぱり速い。画面の向こうに相澤がいるのが、急に現実になる。
『えらい』
たった二文字。なのに胸が熱くなる。褒めなくていいって言ったのに、こういう褒めはずるい。俺は返事に困って、指先で机を叩いた。返さないと、変に終わる。でも、余計なことを言うともっと変になる。
『…うるさい』
送信してから、しまったと思う。可愛げがない。けど相澤から返ってきたのは、想像より軽い。
『うるさいって言えるならOK。明日7:20な』
時間が具体的すぎて笑いそうになる。7:20。そこまで決めるのか。決められると逃げられない。逃げられないのが怖いはずなのに、胸の奥がふっと落ち着く。
『了解。7:20』
返したあと、俺はスマホを見つめたまま動けなくなった。ほんの数日前まで、相澤は“ただの同級生”で、文化祭実行委員のペアになっただけの相手だった。なのに今は、明日の時間を決めて、朝の集合場所を決めて、俺の呼吸の話までしている。
『結城』
相澤から、もう一通。
『終わっても会うけど。…何か問題?』
胸が一瞬きゅっと縮む。冗談みたいなのに、冗談じゃない感じがする。俺は返事を打って、消して、また打って、結局いちばん短いのにした。
『問題ない』
送った瞬間、既読が付く。そして、返ってきた。
『じゃ、明日も』
たったそれだけで、世界の輪郭が少し変わった気がした。
「明日も」が確定して、俺はそれを怖いと思う前に、少し楽しみだと思ってしまった。
