迷子の放送室で、君にだけ見つかりたい

部屋の明かりの下でスマホを開くと、指先だけが落ち着かなくなった。風呂を済ませて、机に向かっても、今日の廊下と準備室の暗さがまだ体に残っている。メモ帳には相澤が並べた“順番”が書いてあって、見れば少し安心するのに、胸の奥のざわつきは消えない。

(連絡、入れないと)

提出回収の進捗、先生チェックの時間、明日の朝当番。送る内容は決まっている。なのに、送信ボタンの前で止まる。事務連絡なのに、相澤に送るというだけで、別の意味が混ざりそうで怖い。

『明日、朝当番。昇降口の柱のとこ集合でOK?』
打って、消して、また打つ。硬すぎる。柔らかすぎる。正解が分からない。結局、いちばん無難な文にして送った。

『明日、朝当番。昇降口の柱のところ集合で大丈夫?』

送信。既読が付くまでの数秒が、やけに長い。画面を伏せたくなるのに、目が離れない。すぐに「既読」の文字が付いて、心臓が一拍跳ねた。

『大丈夫。結城、起きれる?』

たったそれだけなのに、笑いそうになる。起きれる?って、軽いのに、気にしてるのが透ける。俺は「起きれる」と返そうとして、指が止まる。言い切ると嘘になるかもしれない。でも“たぶん”はもう言いたくない。

『起きる。起きれなかったら起こして』
打って、最後の一文で固まった。頼る、ってこういうことだ。送ったら負けみたいで、でも送りたいみたいで、胸がきゅっとなる。

迷っている間に、相澤からもう一通来た。

『無理なら言え。俺、迎え行く』

画面の文字が明るすぎて、目が痛い。無理なら言え。準備室で言われたのと同じだ。俺は指先で短く返した。

『了解』

たった二文字。そっけないのに、既読が付くと胸が軽くなる。日常みたいなやり取りが、今日から増えていく気がして、怖いのに少しだけ嬉しい。スマホを伏せても、画面の明かりがまだ手のひらに残っていた。