迷子の放送室で、君にだけ見つかりたい

相澤は椅子にもたれて、楽しそうに俺の反応だけを見ていた。役割が決まった途端、周囲の空気が少し軽くなる。誰かが「助かった」と小さく笑って、別の誰かが次の係の相談を始める。俺だけが、さっき担任に丸を付けられた紙の上から目を離せなかった。

「で、結城。パンフって何からやるの?」

相澤があっさり聞いてくる。まるで自分の係じゃなく、教科のプリントのことでも尋ねるみたいに。

「何からって……まず、提出物の締切確認。各団体の掲載内容回収。それをまとめて、先生に――」

「うんうん。つまり、めんどい」

「……そういう言い方するな」

俺が言った途端、相澤は笑った。わざとらしくはない。呼吸の途中で漏れたみたいな笑いで、余計に腹が立つ。

「だって事実じゃん。俺、めんどいの嫌い」

「嫌いでも、やるんだよ。決まったんだから」

「真面目〜。だから脳担当なんだって」

脳担当、って何だ。俺は資料の束を机の上で整えながら、言葉を探す。反論するほど相手のペースに乗せられる気がして悔しいのに、黙ると“負け”みたいで落ち着かない。

「合理的って言ったの、取り消していい?」

「え、なんで。合理的だよ?」

「手足って言うなら、ちゃんと動け。途中でいなくなるなよ」

俺の声が、思ったより硬かった。相澤は一瞬だけ目を丸くして、すぐに口角を上げる。

「はいはい。動きます。命令してくれて助かる〜」

「命令じゃない。……確認だ」

自分でも、言い訳みたいだと思った。俺は視線を資料に落として、紙の文字に逃げる。逃げたくないのに、逃げる癖が出る。

担任が前で別の係を決めている声が、遠い。耳の奥にしか入ってこない。俺の中では、相澤の「めんどい」という一言が、変に残っていた。軽さは楽だ。責任を背負わなくていい感じがする。けど、その軽さに俺が振り回されたら、終わる。

「結城ってさ」

相澤の声が近い。俺は顔を上げる前に、心臓が一拍跳ねた。

「ずっとそうやって、一人で抱えるタイプ?」

「……別に」

「別にって顔じゃない。さっきから眉間、ずっと働いてる」

「うるさい」

「うるさいって言えるなら、まだ余裕あるな」

相澤は楽しそうに言って、机の端を指でトントンと叩いた。苛立つのに、変に嫌じゃない。自分の内側を見抜かれたみたいで落ち着かないのに、目を逸らしきれない。

周りの笑い声がまた上がる。俺だけ息が浅くなり、資料の文字が滲んだ。相澤の視線が、そこだけはっきり分かった。