迷子の放送室で、君にだけ見つかりたい

昼の廊下は人が多くて、俺はそれだけで肩が固くなる。昼休みの終わり際、教室から教室へ移動する波がぶつかり合って、空気がむっと熱い。掲示板の前でメモを開き、回収予定の団体に赤丸を付け直す。図書委員会、放送部、軽音。昼まで――のはずが、まだ一つも揃っていない。

「結城、委員会のやつ、来てない?」

後ろからクラスメイトに聞かれて、俺は首を横に振った。来てない、という事実だけで胃が沈む。催促は嫌いだ。責めてるみたいになる。けど、催促しないと締切が破られる。締切が破られると、全部が崩れる。

(だから、やる)

俺は廊下の端で深呼吸して、図書室の方向へ歩き出した。途中で先生にすれ違い、無意識に背筋が伸びる。視線を落とすと、さっき相澤に言われた「顔に“謝る”って書くなよ」が頭をよぎって、喉がきゅっとなる。

図書室の手前で、相澤が女子二人と話しているのが見えた。相澤は腕時計を指しながら、何かを確認している。俺は一瞬だけ立ち止まって、声をかけるタイミングを探した。人の流れが途切れず、距離も遠い。こういう時、俺はいつも“後でいい”を選ぶ。

でも今日は、後でいいが許されない。

「すみません、図書委員会の提出、今日の昼までなんだけど」

俺が言うと、女子の片方が「あっ」と声を上げた。

「やば、忘れてた! 今から持ってくる!」

もう片方が「ごめん!」と頭を下げる。責めたかったわけじゃないのに、やっぱり申し訳なさそうな顔をされると胸が痛い。

「急がせてごめん。……でも、助かる」

言い方が硬い。もっと軽く言えたらいいのに。相澤が横で小さく息を吐いて、俺の代わりに言葉を足す。

「全然責めてないよ。間に合えばOK。結城、今まとめたいだけだから」

その言い方が、空気をふわっと軽くした。女子たちは「了解!」と走っていく。俺はその背中を見送って、ようやく息を吐いた。

「……ありがとう」

小声で言うと、相澤は肩をすくめる。

「結城、今のは合格。ちゃんと催促できた」

「合格って何だよ」

「俺の採点。結城、ちゃんと前向いてる」

相澤が俺の前に立った瞬間、背中の緊張が少しだけ解けた。