迷子の放送室で、君にだけ見つかりたい

朝の昇降口はまだ冷えていて、息が白くなった。登校してくる生徒の靴音がぱらぱら響くのに、俺の視線は掲示板から離れない。文化祭実行委員の「朝の掲示・配布物チェック当番」。紙の端にクリップで留められたシフト表が、やけに“決定事項”として強い。

(毎朝、ここに立つのか)

そう思っただけで、胸の奥が少しざわついた。逃げ場が減る、という意味で。けど同時に、昨日の印刷室みたいに“やることが決まる”安心も、少しだけある。

「結城、寒そう」

背後から声がして、俺は肩をすくめた。振り返ると相澤が手袋をはめながら近づいてくる。いつもみたいに軽く笑っているのに、目はもう当番表を見ていた。

「当番、見た?」

「見た。……朝は俺、弱い」

「知ってる。だから逃げ道なくす」

相澤は当然みたいに言って、当番表の端を指で叩いた。俺が眉を寄せると、相澤は少しだけ声を落とす。

「朝の掲示ってさ、誰も見てないようで見てる。ここがグダると、文化祭もグダる」

「……分かってる」

分かってる。分かってるから、怖い。俺は掲示板の紙を押さえ、風でめくれないように端を整えた。指先が冷たい。相澤はその手元を見て、俺の横に並ぶ。近い。けど、昨日みたいに無理に覗き込んでこない。必要な距離だけを取るのが、妙に上手い。

「で、集合場所」

相澤が言いながら、昇降口の柱の影を指差す。人の流れの邪魔にならない位置。掲示板が見える位置。荷物置き場にもなる位置。

「今日から朝、ここ集合。逃げ道なくなったな」

「……逃げ道って言うな」

言い返したのに、相澤は笑っている。俺は笑えないくせに、なぜか腹は立たなかった。むしろ、その言い方で“毎日会う”が事務的に確定したことが、胸の奥を変に温める。

「遅刻すんなよ、結城」

「しない。……たぶん」

口から出た“たぶん”に、自分で舌打ちしそうになった。相澤は笑わないで、俺を見る。

「今それ言う?」

「……言わない。しない」

「よし」

相澤は短く頷いて、掲示板に貼られたプリントの端を揃えた。その手つきが、印刷室で紙を揃えた時と同じで、俺は一瞬だけ息を止めた。

相澤が「ここ集合な」と言っただけで、明日からの景色が決まった気がした。