迷子の放送室で、君にだけ見つかりたい

相澤は俺の謝罪を奪うみたいに、首を横に振った。さっきまで黙って缶の水滴を眺めていたのに、その動きだけは迷いがない。俺が「俺がちゃんと見てれば」と言った瞬間から、否定する準備をしていたみたいに。

「違う」

短い。強い。怒っているんじゃないのに、言葉だけが真っ直ぐで、俺は思わず顔を上げた。

「結城が悪い、って話にするな。結城が悪いってことにしたら、解決しないだろ」

解決。相澤はそこに戻す。俺はいつも、謝って終わらせようとする。謝れば場が収まる。責任が一本化されて分かりやすい。でもその分、次はもっと怖くなるだけだ。

「でも、俺が確認したって言った」

「確認した。だからこそ、別の可能性があるって話」

相澤は缶を軽く持ち上げて、喉を鳴らして飲んだ。落ち着け、という代わりに、自分が落ち着いて見せるみたいな飲み方だった。

「結城ってさ、優しいのか、怖がりなのか分かんない」

「……どっちも嫌だ」

正直に返したら、相澤が鼻で笑った。からかいの笑いじゃない。変に安心した笑い。

「嫌でも、どっちもある。誰かのせいにしたくないから、自分のせいにする。そうすると、誰も責めなくて済む。――でもそれ、結城が一番傷つくやつ」

言い返せない。図星すぎて、喉が乾く。俺は缶を握り直して、冷たさで自分を繋ぎ止めた。

「……じゃあ、どうすればいい」

弱音みたいに出た言葉に、自分で驚く。頼るってこういうことか、と遅れて分かって怖くなる。相澤は俺を見て、少しだけ眉を下げた。

「切り分け。原因を探す。必要なら、誰かに『これ違う』って言う。結城が言いにくいなら、俺が言う」

相澤は当然みたいに言った。その“当然”が、俺には眩しい。自分の中だけで全部終わらせるのが当然だと思ってきたから。

「……お前、さっき職員室前で」

思い出すだけで胸が痛い。相澤が半歩前に出た背中。俺の呼吸を戻す声。

「前に出るの、得意なの?」

皮肉みたいに言ったつもりが、声が震えてしまう。相澤は肩をすくめた。

「得意じゃない。結城が後ろに下がるのが得意すぎるから、バランス取ってるだけ」

言い方が軽いのに、やってることは重い。俺は目を逸らした。逸らした先のコンクリートの隙間に、小さな雑草が生えている。どうでもいいものに視線を固定して、心の揺れを隠す。

相澤が一歩だけ近づく。近いのに、触れない距離。

「結城」

名前を呼ばれて、また心臓が跳ねる。

「俺、味方な。今日だけじゃない。文化祭終わるまで、って言うと逃げそうだから、もうちょい長く」

冗談みたいに言うのに、目は真剣だった。“味方”という言葉が、胸の奥で音を立てる。友達とか相棒とか、そういう軽いラベルじゃない。もっと、逃げ道がなくなる言葉。

俺は息を吸って、でもうまく吐けなかった。言葉が出ない代わりに、缶の冷たさを掌に押し付けた。

「……分かった」

やっと出た声は小さすぎた。でも相澤は聞こえたみたいに頷いて、俺の手元の缶をちらっと見た。

「よし。じゃ、戻る。結城が一人で謝る前に、俺が先に喋るから」

その言い方がずるい。守ると言わずに、守る。俺は目を逸らしたまま、「……ありがとう」とだけ言った。相澤は「どーいたしまして」と軽く返して、でもその軽さの奥に、確かに“味方”がいた。