俺は机の上の紙をかき集めて、胸の前に盾みたいに抱えた。視線が痛い。誰かの「え、どうするの?」が刺さって、息が浅くなる。正しい順番なら、原因を確認して、関係者に共有して、修正方針を決める。分かっているのに、その前に口から出たのはいつもの癖だった。
「……俺が直す」
言った瞬間、少しだけ空気が緩んだ。責任の矢印が一本にまとまる。楽になる、はずなのに、胸の奥がもっと苦しくなる。
「結城が直すなら助かる」
「先生に出す前でよかったじゃん」
そんな声が背中を押してくる。助かる、って言葉が重い。助ける側になったら、失敗できない。俺はコピーを抱えたまま教室の隅に移動して、自分の席に置いてあるノートPCを開いた。手が震えて、パスワードを一回打ち間違える。
(落ち着け。確認する。修正する。出し直す)
頭の中で手順を唱える。ファイルを開いて、教室番号を直して、PDFに書き出して、先生に送る。簡単な作業だ。数字一つ。なのに、なぜこんなに怖いんだろう。
「結城、さっきのって――」
声をかけられて、俺は顔を上げられないまま「大丈夫」と返した。勝手に出た言葉。大丈夫って言えば、みんな安心する。みんなが安心すれば、場が回る。そうやって俺はいつも、場を止めないことを優先してきた。
でも今日の「大丈夫」は、嘘だった。嘘だと自分が一番分かっていて、それが一番苦しい。
(俺、確認したのに。…したはずなのに)
“はず”がまた浮かぶ。嫌だ。曖昧にしたくない。俺は修正履歴を開き、日時と名前を追う。見慣れたフォルダ名が並ぶ。指先が冷える。もし本当に俺のミスだったら。もし見落としていたら。もし相澤の前で「任せていい」って言われたのに、これで。
「結城、昼飯食った?」
唐突に相澤の声が近づいた。俺の横に立った気配がして、視線だけがさらに重くなるのに、俺は顔を上げない。
「いまそれどころじゃ――」
言いかけて止まる。相澤は笑わない。机に手をついて、画面を覗き込まずに、ただ低い声で言った。
「焦ってる顔。…息、浅い」
その一言で、俺の喉がきゅっと鳴った。息をしているつもりだったのに、ちゃんとできていなかった。
「……ごめん」
謝る相手が違うのに、口が勝手に謝罪を選ぶ。俺は唇を噛んで、画面に視線を戻した。違う。俺のせいじゃない、って言えない。言うと誰かを責めることになる気がして、怖い。
謝る言葉ばかりが先に立って、肝心の説明が喉の奥で詰まった。
「……俺が直す」
言った瞬間、少しだけ空気が緩んだ。責任の矢印が一本にまとまる。楽になる、はずなのに、胸の奥がもっと苦しくなる。
「結城が直すなら助かる」
「先生に出す前でよかったじゃん」
そんな声が背中を押してくる。助かる、って言葉が重い。助ける側になったら、失敗できない。俺はコピーを抱えたまま教室の隅に移動して、自分の席に置いてあるノートPCを開いた。手が震えて、パスワードを一回打ち間違える。
(落ち着け。確認する。修正する。出し直す)
頭の中で手順を唱える。ファイルを開いて、教室番号を直して、PDFに書き出して、先生に送る。簡単な作業だ。数字一つ。なのに、なぜこんなに怖いんだろう。
「結城、さっきのって――」
声をかけられて、俺は顔を上げられないまま「大丈夫」と返した。勝手に出た言葉。大丈夫って言えば、みんな安心する。みんなが安心すれば、場が回る。そうやって俺はいつも、場を止めないことを優先してきた。
でも今日の「大丈夫」は、嘘だった。嘘だと自分が一番分かっていて、それが一番苦しい。
(俺、確認したのに。…したはずなのに)
“はず”がまた浮かぶ。嫌だ。曖昧にしたくない。俺は修正履歴を開き、日時と名前を追う。見慣れたフォルダ名が並ぶ。指先が冷える。もし本当に俺のミスだったら。もし見落としていたら。もし相澤の前で「任せていい」って言われたのに、これで。
「結城、昼飯食った?」
唐突に相澤の声が近づいた。俺の横に立った気配がして、視線だけがさらに重くなるのに、俺は顔を上げない。
「いまそれどころじゃ――」
言いかけて止まる。相澤は笑わない。机に手をついて、画面を覗き込まずに、ただ低い声で言った。
「焦ってる顔。…息、浅い」
その一言で、俺の喉がきゅっと鳴った。息をしているつもりだったのに、ちゃんとできていなかった。
「……ごめん」
謝る相手が違うのに、口が勝手に謝罪を選ぶ。俺は唇を噛んで、画面に視線を戻した。違う。俺のせいじゃない、って言えない。言うと誰かを責めることになる気がして、怖い。
謝る言葉ばかりが先に立って、肝心の説明が喉の奥で詰まった。
