迷子の放送室で、君にだけ見つかりたい

放課後の視聴覚室は、机の脚が床を擦る音だけがやけに響いていた。普段は使われない部屋のくせに、今日に限って人が多い。文化祭実行委員の初回集まり。俺は資料の束を胸に抱え、前の席の背中を見つめたまま、呼吸の回数を数えていた。

「まず、パンフと掲示の担当を決めます」

担任が淡々と言い、配られた紙を机の上に置く。簡単なはずの作業なのに、会議の空気は妙に重い。誰が仕切る、誰が動く、誰が責任を取る。そんな無言の押し付け合いが、視線の端で起きている。

「結城、だっけ。字きれいそうじゃん」

横から軽い声が飛んできて、俺は反射でそちらを見た。椅子にもたれて、腕を組んでいる男子。表情は笑っているのに、目だけがこちらを覗いている。

「……何それ」

「いや、パンフとか向いてそうって意味。俺は相澤。よろしく」

名乗りながら、相澤は俺の机の上の資料を指でちょんと叩いた。馴れ馴れしい。なのに、妙に自然で、腹が立つほど場に馴染んでいる。

担任が咳払いをして、紙を机に叩いた。

「じゃあ、今ここで役割決めろ。時間ないからな。パンフ担当は、文章確認と最終提出まで責任持てる人」

一斉に視線が泳いだ。俺は喉の奥が乾くのを感じながら、手を上げようとした。やる人がいないなら、俺がやる。そうやってここまで来た。そういう性分だと、自分でも分かっている。

その瞬間、隣の相澤が先に手を上げた。

「はい。俺、やります」

ざわっと小さく空気が動く。驚いたのは俺だけじゃない。相澤は肩をすくめ、俺のほうを見て笑った。

「ただし、一人じゃ無理。結城、組も。細かいとこ見れるだろ」

俺は手を上げかけたまま固まった。勝手に決めるな。そう言い返したいのに、担任は「助かる」と即答し、紙に丸を付けてしまう。

「相澤と結城でパンフ。掲示も兼務してもらう。異論は?」

誰も言わない。言えるはずがない。視線だけが俺に集まって、逃げ道が消える。

相澤が俺の机に身を乗り出して、小声で言った。

「結城が脳で、俺が手足。合理的じゃん」

その言い方が軽すぎて、俺は思わず息を吐いた。笑っていいのか、怒るべきなのか分からないまま、担任がもう一度紙を叩く音だけが、視聴覚室に響いた。