嘘が溢れた世界で、君だけは真実を見つめていた

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 ショッピングモールを出てすぐに、俺たちは芳村と別れた。
 俺の隣を歩くのんは、まるで平均台のように白線の上を進んでいる。両手を広げてバランスを取りながら歩く姿は、とても同い年とは思えない。
 本当はのんのほうが数か月ほど先に生まれているが、目の前ののんを見ていたら俺のほうが年上に見られるのも納得する。
 しかし、のんのトレードマークとなったぬいぐるみのキーホルダーの塊が仲良く揺れ動くのを眺めながら考えるのは、さっきののんの態度だ。
 芳村でも勘づくくらいの演技。そんなぼろを出すなんて、のんらしくない。

「なあ、のん」

 俺が呼んでも、のんはこちらを見ずに「んー?」なんて言いながら、歩き進めている。上手に白線の上を歩くから、クマのぬいぐるみが穏やかに揺れる。
 俺の考えていることなんてわかっているくせに、白々しい奴だ。

「さっき、なんであんな誤魔化し方をしたんだ」
「……なんのこと?」

 妙な間がわざとらしさを助長させる。
 まあ、逃がすつもりはないが。

「垂れ幕の犯人だ。お腹が空いたとか適当なことを言って話を切るから、さすがのアイツでも疑ってただろ」

 のんは言い訳を用意していなかったのか、なにも応えない。

「犯人、わかってるんだろ」

 俺がそう断言した途端、俺たちの間を温い風が通り過ぎていった気がした。
 ほんの少し強い風に気を取られている間に、のんは足を止めた。まさか立ち止まるとは思っていなかったので、俺は少しだけのんを追い越してから止まった。
 振り向くと、のんは両頬を膨らませて俺を睨んでいる。
 図星だから拗ねているのだろうか。

「……ヒロくんだって、犯人わかってて誤魔化したくせに」

 そういえば、俺も適当な誤魔化し方をしたんだった。透明人間なんて、誰も信じないであろう嘘をついて。
 たしかに、人のことを言えないが。

「芳村の気をそらすには十分な嘘だっただろ」

 それにはのんも思うところがあるのか、それ以上は言ってこなかった。
 お互いに、真犯人を隠したかった。それ以外ないだろう。
 しかし不服であることに変わりはないらしく、口を曲げたまま歩き始めるが、もう白線の上を歩く遊びは飽きたみたいだ。わずかに白線から足がはみ出ても、気にする様子を見せない。
 少しずつ“のんちゃん”の仮面が剥がれている証拠だろう。

「ヒロくんは、いつから犯人がわかってたの?」

 いつから。
 そう問われれば、相応しい答えはひとつしかない。

「最初からだな」

 すると、のんは信じられないと言わんばかりに目を丸めた。

「え、最初から犯人がわかってて、あんなに碧羽くんのことを疑ってたの?」
「疑ったわけじゃない。アイツが犯人になれば、すべてが丸く収まると思っただけだ」

 そう語りながら、俺は屋上で芳村を見つけたときのことを思い返した。
 日陰に入り、床に座って壁に背中を預けた状態で寝ていた芳村。俺が起こしたから、明確にわかる。
 アイツは、間違いなく熟睡していた。
 そしてさっき話した通り、先輩たちの反応からして、垂れ幕は回収される直前までは無事だった。
 この二点だけでも、芳村が犯人ではないことが確定する。
 しかし、それを覆すほどの決定的証拠であるハサミ。これが芳村のそばに置かれていた理由は、やはり芳村に罪を擦り付けたいからだろう。
 だが、なぜ(・・)芳村に罪を擦り付けたいのかが見えなかった。
 芳村が憎かったのかもしれないし、自分が犯した罪を後悔したのかもしれない。それがわからないままに、むやみやたらに真相を暴くのは早いような気がした。
 ゆえに、俺は犯人の策に乗り、芳村に罪を着せようとしたというわけだ。
 しかしながら、あの議論の末、まだ芳村を犯人にしようとするには無理があったため、諦めたが。

「ヒロくん……そんなに碧羽くんのこと、キライだったの?」

 のんは軽く軽蔑した眼をしている。

「さあ、どうだろうな」

 曖昧な答えに、のんは不服そうだ。
 そんな反応をするなんて、余程アイツを気に入っているらしい。
 まあ、今回の俺の対応は関係性のある奴に対してのものではないことは確かだろう。それなのに、嫌いかと問われればイエスともノーとも言えないのが自分でも不思議だ。
 気に入らないのかと問われれば、迷いなく頷くのだが。

「あーあ。碧羽くん、かわいそう」

 のんはそう言いながら、足元に転がった小石を蹴飛ばした。
 どうやら、“のんちゃん”の仮面を被り直したみたいだ。声色や言い回しも、子供じみている。
 家の中くらい、仮面を外せばいいのに。
 俺はそう思うが、のんは家の中でこそ、偽りの仮面を被りたがる。
 そんなのんが、唯一、俺以外に素を見せられるかもしれない存在。
 それが、芳村だと思うから。
 だから俺は、アイツが気に入らないけれど、嫌いとは言い切れないのだと思う。

「ヒロくん、早く帰ろー?」

 俺の少し先を歩くのんは、振り返って俺を呼んだ。
 そこには、みんなの前で明るく振る舞う“のんちゃん”が立っていた。