嘘が溢れた世界で、君だけは真実を見つめていた

 それからショッピングモールに着くまで、のんちゃんは自分の好きなものを語ってくれた。リュックについているクマをはじめ、最近流行っているキャラクター。どれも、紘都には可愛すぎるものばかりだった。
 それなのに、雑貨店に入ったのんちゃんはそんな可愛いものを見て回っている。のんちゃんが今、手にしているピンクの花柄雑貨を紘都が所持することになると思うと、笑えてくる。
 といっても、俺にも可愛すぎるものしかないせいで、店に入る勇気がなかった。店の外から浮かれたのんちゃんを見ているだけで十分だ。

「お前、いいのかよ。のんちゃん、本気で自分が好きなものを買うつもりみたいだけど」
「いい」

 まさかの即答。
 ちょっと前の俺だったら、シスコン野郎くらいは思っただろう。だが、ふたりが双子ではないと
 紘都がここまでのんちゃんに甘いのは、ふたりの本当の関係が原因か?
 ……いや、このことを考えるのはやめるんだった。

「お前こそ、入らなくていいのか?」

 俺が紘都はにやりと笑った。
 それはたぶん、俺が『最高のプレゼント選んでやんよ』と言ったからだろう。
 紘都は別に、俺からの誕プレがほしいとは思っていない。ただ単に、俺をからかいたいだけ。
 それがわかっているから、俺は「うるせ」と言って出入り口付近にあるアニメグッズに視線を移した。
 紘都は横に立ったまま、のんちゃんを見つめている。この場合、見張っていると言ったほうが正しいのかもしれない。なんだかんだ、変なものを買われては困るのだろう。
 貶し合いばかりする俺たちは、雑談を楽しもうとは微塵も思わず、お互い黙った。
 正直、無言の時間は苦ではないが、あの話をするなら今がチャンスか。

「……なあ、お前らが屋上に来たときの状況が知りたいんだけど」

 俺が急にそんなことを聞いたことで、紘都は怪訝な顔をした。

「急になんだよ」
「いや……」

 急ということもないだろうが、俺は反論せずに、さっきの原たちの話を簡潔に言った。

「なるほどな。でも、それをお前が知ってどうするんだ」
「探偵ごっこだよ」

 ごっこ遊びなんて子供じみているとわかっているが、無性に心が踊っている自分がいた。その証拠に、左側の口角が上がったのがわかる。だからか、紘都はくだらないとでも言いたそうな眼をしている。

「碧羽くん、探偵さんになるの? かっこいい!」

 すると、さっきまで店の中にいたはずののんちゃんが、キラキラと眩しい顔でそこにいた。
 学校での推理力というか、推察力からして、俺よりものんちゃんのほうが探偵を名乗るにふさわしいような気がするけど、まあいいか。

「のんちゃん、買い物はおしまい?」
「うん! 可愛いネコさんのぬいぐるみにしたの!」

 俺の質問に、のんちゃんはバカ正直に答えた。どうやら、のんちゃんの頭にはサプライズという言葉はないらしい。まあ、プレゼントを渡す本人になにが欲しいか聞くくらいだから、こんなものか。
 しかしまあ、紘都に猫のぬいぐるみね。

「よかったな、紘都。これで少しは可愛げがある性格になるんじゃね」

 のんちゃんが言う“可愛い”は、きっと俺たちが思うよりもうんと紘都には似合わない。それが紘都の手に渡ると思うと、面白くて仕方ないのだが。

「そうか、話さなくてもいいんだな」

 俺がにやついていたことで、紘都は不機嫌さを増した。こいつなら本当に話さないで終わらせてしまいそうで、俺は慌てて言い訳を並べた。

「いや、ほら、なんていうか……そう、のんちゃんが選んだんだ、紘都に決まってるよ。な、のんちゃん」
「もちろん!」

 のんちゃんが全力で頷いてくれたことで、紘都の怒りも少しは収まってくれたように見えた。これでひとまず安心だな。

「のん、アイス食べたい!」

 それじゃあ切り替えて、紘都に屋上の話をしてもらおうかと思った刹那、のんちゃんが元気よく提案してきた。
 そんなことをしている暇はないだろうけど、言われると食べたくなるのだから不思議だ。

「いいね、行こうか」

 俺が賛成すると、のんちゃんは本当に嬉しそうに笑った。なんというか、紘都ほどではないけど、これだけ純粋な笑顔を見ていると、甘やかしたくなるのもわかる。
 そして俺たちは雑貨店を離れ、このショッピングモール内にあるシャーベット屋に向かって移動を始めた。

「それで? お前が聞きたいのは屋上にたどり着く前の話だったか?」

 エスカレーターに乗って一階に降りている途中、一番後ろに立った紘都が言った。
 階段だから仕方ないとはわかっているけど、紘都を見上げなければならないってのは面白くないな。
 まあ、これに関しての文句を言えば、また機嫌を損ねてしまいそうだから、黙っておくけど。

「そうそう。垂れ幕が切られて発見されるまでの時間が結構短かったから、なんでお前がすぐに屋上に来れたのか気になったんだよ」
「そんなに短かったの?」
「うん。五分か十分くらいなんだって」

 俺の返答を聞いて、のんちゃんは「十分……」と呟きながらエスカレーターを降りた。
 いつもの癖で少し上を見ながら歩いているから、転けたり人とぶつかったりしないだろうかと心配になるが、杞憂だったらしい。のんちゃんは器用に人を避けながら進んでいる。

「切られた垂れ幕が見つかる直前までは、無傷な垂れ幕があったのかな?」
「さあ……どうだろ。そこまでは聞いてないな」

 言いながら、たとえ聞いたとしても、あの三人が垂れ幕に意識を向けていたとは思えなかった。たぶん、俺と同じで垂れ幕があることにすら気付いていなかったタイプだろうから、聞くだけムダな気がする。

「放課後までは、普通に飾られてたんじゃないか」

 紘都がそう言ったことで、のんちゃんは振り向いて後ろ向きで歩こうとした。さすがにそれは危ないので、俺も紘都も、前を向かせる。
 しかし紘都の話には興味があるらしく、視線は完全に後ろを見ている。そんなのんちゃんを見て、紘都はため息をつきながらのんちゃんの隣に立った。
 俺はふたりの後ろを歩くことになったが、話は聞こえるからまあいいだろう。

「俺は、放課後まで文化祭の準備をサボっていたコイツを探し回った末に、屋上に向かったんだ」

 若干トゲのある言い回しで、文句を言ってやろうとしたが、よくよく考えれば、悪いのはサボった俺だ。紘都を責めるのも違うか。
 しかし、わずかに振り向いたのんちゃんの目が「そうなの?」と言いたそうで、俺は目を逸らしてしまった。

「その途中に生徒会長と会ったんだが、慌てた様子がなかった。普通に、いつもの習慣として垂れ幕を片付けに向かっているというような感じだな。もし垂れ幕が切られていたと知っていたら、走ったりなんだりしていたと思う」

 だから、放課後までは無事だったと言い切ったわけか。のんちゃんも納得しているように見えたが、まだ疑問点は残っているらしい。
 やっぱり、探偵は俺よりものんちゃんだな。

「出会ったのって、早希センパイだけなの? 結衣子センパイは?」
守谷(もりや)先輩は先に屋上に着いていたな」
「じゃあ、結衣子先輩が犯人を見た可能性があるってことじゃん」

 ふたりとも俺が口を挟むと思っていなかったのか、少し驚いた顔で見てきた。
 もしくは、俺が探偵らしいことを言ったことに驚いたか。
 ……どちらにせよ、失礼な話だな。
 いや、見当違いなことを言った可能性だってある。そう思ったが、のんちゃんは全力で頷いてくれたことで、その不安は払拭された。

「残念ながら、誰ともすれ違わなかったらしい」